新生児のあれこれ 15 <臍帯の断面>

へその緒の消毒について、文献を紹介しました。


どちらも主に臍帯を切ってしばらくして、たとえば生後1日あたりからの消毒方法に焦点を当てたものでした。


案外と書かれていないのが、「臍帯切断直後に臍帯をどのように消毒し、どのように取り扱うか」ということです。


子宮内は基本的に無菌状態ですから、胎児は雑菌にさらされることは本当にまれなことです。
そして、臍帯内には胎児の心臓へ直結する血液の流れがあります。


へその緒を切断するということは、その断端面から胎児の体内へ雑菌が入る可能性があります。


臍帯剪刀(せんとう)や手指を介して破傷風の芽胞が体内に入れば、「新生児破傷風」という致命的な感染を起こす可能性があることは昨日書きました。


破傷風に限らずそれまで子宮内で雑菌に触れることのなかった新生児にとって、臍帯の断面というのは感染に対してなんと無防備な状況でしょうか。


<臍帯切断直後の消毒>


私は助産婦学校時代に「臍帯切断後すぐに逆性石鹸(塩化ベンザルコニウム)の希釈液を浸した綿球で切断面を消毒する」という方法を習い、現在もそのままその方法を続けています。


そして新生児の諸計測が終わり、臍帯を滅菌したガーゼで保護する時にアルコール綿でさらに消毒するように学びました。


ところがこの方法が果たして現在も有効なのか。
助産関係の書籍を気にして探してみているのですが、臍帯切断直後の方法については標準化どころか、具体的な方法が書かれていないことが多いのです。


たとえば私が学生時代に使った教科書では、「切断後の断端は血液を拭き、完全に血流の止まっていることを確認しておく」と書かれているだけで、消毒については書かれていません。
最近出版された助産技術に関する書籍でも、臍帯切断直後の消毒に関しては書かれていませんでした。


前々回の記事で紹介した「先進国における臍炎予防に有効な臍帯脱落および臍窩の乾燥を促進する臍帯ケア方法に関する文献検討」で、この臍帯切断直後の消毒について書かれた部分がありました。

臍帯ケアにおける消毒の要不要については結論はでていない。しかし、少なくとも臍帯を切断するときには生体消毒薬を用いて臍断端部を消毒することが必要である。これは、切断した臍帯は新生児の体内と交通しており微生物の侵入門戸となるためである

臍帯ケアに使用することが可能な消毒薬は、ポピドンヨード、クロルヘキシジン、アルコールである。
(p.30)


ポピドンヨード(イソジン)は「ポピドンヨード製剤を新生児に使用し一過性の甲状腺機能低下症を起こしたことがある」ということで、正確な時期は覚えていないのですが十年以上前から臍帯の消毒には使われなくなったと記憶しています。


クロルヘキシジン(ヒビテン)は、私が勤務してきた数箇所の病院で新生児の臍に使用していたところはありませんでした。


逆性石鹸希釈液での消毒方法は、効果はどうなのでしょうか?また有害性はあるのでしょうか?


そうなるとアルコールが現時点では安全かつ有効性のある消毒薬ということになりますが、アルコールは揮発しやすいのであらかじめアルコール綿を分娩器具とともに置いておくわけにはいきません。
臍帯切断のタイミングで、外回りのスタッフにアルコール綿の個別包装を開けて準備してもらう必要があるのでしょうか?


<臍周囲の雑菌との攻防戦>


さまざまな細菌やウィルスなどが感染症の原因であることがわかってたかだか150年ほどです。


へその緒を清潔に取り扱うことの重要性を経験的には伝えられてきたのだとは思いますが、滅菌された器具や手指の消毒などが標準的になったのは人類の歴史から考えたらごくごく最近のことです。


滅菌した器具を使っても、出生したばかりの新生児はそれまでに触れたこともない細菌類に出会うわけです。
切断直後に臍帯断面を消毒薬で拭いても、その後ずっとその断端面は雑菌にさらされ続けます。


臍帯切断直後の断面を見るたびに、出生直後の新生児の臍周辺では細菌との攻防戦はどのように行われているのだろうと不思議な思いにかられます。


生後2〜3日を過ぎて赤ちゃん達が元気でいてくれると、ああ無事に早期新生児期の感染症を起こさなくてすんだとほっとします。

そして臍帯切断部からの重篤な感染も起こさなくてすんだ・・・と。


私の勤務先では子どもも立ち会うことができます。
赤ちゃんの頭が出てくるときに目を輝かしてのぞき込もうとするお子さんもいますが、特に注意はしません。


ただ、臍帯にだけは触らせることも近づくこともさせません。
臍帯を切るときには離れてもらうようにしています。


私にはこの臍の細菌との攻防戦がまだまだ未知の世界なので、誰が切っても大丈夫とは言えないからです。





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