10年ひとむかし 13 <時代は悪くなったのか>

先日の記事で、「現代社会の親達の特徴」を紹介しました。再掲します。

世の中は大きく変わろうとしています。人間性を無視し、経済を優先し、効率主義、競争社会で育てられた子どもたちが、母親、父親となっています。母と子、人と人の関係の大切さを無視した今の日本の社会では「母と子の絆」「家族の絆」「人間の絆」は急速に破綻し始めています。現代の親たちの訴えは「自分の子どもの愛し方がわからない」「わが子がかわいく思えない」「気がついたら子どもを虐待していた」など、子どもを産んでも母親、父親になれないで困惑している大人が急増しています。

「凶悪な少年犯罪が急増している」と言われれば、心がざわざわして「悪い世の中になったものだ」と見えてしまうのに似ていますね。


この本が出たのは2000年ですが、当時の親はそんなにひどい状況だったのでしょうか?


私個人は1990年代、2000年代そして2010年代の今と、「いい時代になったなあ」と感じることが多々あります。


<「私作る人 僕食べる人」の世代から>


1990年代初めの頃に勤務していた分娩施設は、当時まだ都内でも少ない「夫立ち会い分娩」をしていました。


その頃の女性の初産年齢は20代前半でしたから、夫も20代が多く、30代になった私よりも少し下の世代という感じでした。
中には、途中で「ちょっと用事が」といって分娩室から忽然と姿を消した男性もいましたが、それでも出産に立ち会おうと決心しただけ、当時はなかなか希有な存在でした。


私は自分の同級生たちの顔を思い浮かべながら、わずか数歳の違いでも、これだけ意識がかわるものなのか思いました。
同級生の男性諸氏なら、絶対に立ち会わないだろうなと。
いえ、妻の出産のために仕事を休むこともハードルが高い人が多いだろうなと、時代の急激な変化に驚いていました。



90年代後半になると、夫立ち会い出産もそれほど珍しいことではなくなりました。
出産後に訪問してみると、夫がこまごまと家事や赤ちゃんの世話をしている姿を良く見かけるようになりました。


しかも、あまり気負った様子もなく、「一人暮らしで家事をやっていましたから」「赤ちゃんかわいいですよね」と。
妻の方も「彼の方が家事や料理が上手だから」と、あっさりしたものです。


ああ、なんていい時代になったのだろう。うらやましいなあと思いました。
私たち世代は、まだ「私作る人 僕食べる人」の何がおかしいのか説明されても、なかなかその行動を変えることは難しい最後の世代だったのかもしれません。


私が20代前半の頃、友人が「転勤が決まって、身の回りのことをしてくれる人が欲しい」と私に言いました。
「え?自分のことは自分でしなきゃ」と返事をしました。
それほどの仲だとは思っていなかったので、あとであれはプロポーズだったことに気づいたのでした。


それからわずか数年の差なのに、隔世の感のような日本の男性の変化に驚くとともに、これもまた「前近代的」な感覚から自由になっていくことに希望を感じました。


たぶん、私の同世代の男性の中にも、「僕食べる人」への違和感を感じてきた人もいたのだろうと思います。
でも、「なんでそれを男がやるの?」という社会の雰囲気はなかなか変わらないですものね。



2000年代に入ると、産後の手伝いがなくて夫が育児休暇をとる人たちや、背広姿の男性が赤ちゃんを背負って通勤したり、保育園の送り迎えをする姿も珍しくなくなりました。


出産直後に「赤ちゃんを抱っこしますか?」と渡しても、照れてしまうのか、表情も変えずに少し抱いただけで終わりだった男性が多かった1990年代初頭に比べると、嬉しそうにずっとだっこしたり話しかけるお父さんが増えました。


子どもが可愛いと素直に表現できる男性が増えて、本当にいい時代だなあと思っています。



子どもを育てる環境が悪くなったというよりも、いつの世も「我こそは世直しをしたい」と思う気持ちがでてくるからやっかいなのかもしれません。
こちらの記事の最後に紹介した「ゲーム脳」のような言説が、いつでも亡霊のように出ては消え、「今の時代はこんなに悪くなった」と思い込みやすいのでしょうね。



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