散歩をする 68 <放射第5号線>

交通量の多い喧騒の中の橋交差点から西側へと入り、中央高速の下をしばらく歩くと、鬱蒼とした木々の中を流れる玉川上水があります。


土手も脇の道も土のままなので、雨の後はぬかるんで大変そうでしたが、一歩踏み込んだらまるでタイムマシンで江戸時代に行ってしまったかのような風景がしばらく続いていました。
今から20数年前のことでした。
この辺りも、私が玉川上水に関心を持つきっかけにもなった風景の一つです。


当時、私の知人の知り合いがそのあたりに住んでいました。
そばに中央高速が通っているのが信じられないほど、風で木々がサワサワという音と玉川上水水音だけの世界になるのです。
こんな場所が23区内にあるなんてと驚くとともに、数年後には都市計画道路のために移転が決まっていたことにもっとびっくりしたのでした。


建設予定地の立ち退きは始まっていましたが、まだ根強い道路建設反対運動と、道路を作るにしても玉川上水をどう守るのかデザインについての議論がありました。
当時、私が関心を持っていた国内外の立ち退きの問題と重なり合い、そして私がとても気に入ったあの風景がなくなることに心を痛めながらも、直接の当事者でない立場では成りゆきを見守るしかありませんでした。


その後、あの場所はどうなったのだろう。気になりつつも、その変化を見届けるのが怖いような気持ちもあって、再び訪れることはありませんでした。


東京都市計画道路放射第5号線>


中の橋交差点から少し歩いた場所に、放射第5号線について説明が書かれた立て看板がありました。
ここから玉川上水の開渠部分が終わるところまでがこの放射第5号線の高井戸西区間で、ほぼ工事は終了しているようでした。


あの鬱蒼とした玉川上水の周辺の、かつて家や農地があった場所はすでに歩道と車道になっていて、玉川上水の開渠が終わる地点には「都立玉川上水公園」という碑がありました。
「むさしのの都立公園」というサイトの、玉川上水公園の概要には「現在、玉川上水緑道として開園されているのは、杉並区の浅間橋から福生市平和橋までの約24kmです」と書かれています。
全長43kmの玉川上水の半分以上が、周囲を公園として保存されているようです。


広々とした車道と歩道ができたことで、あのちょっと森の中の隠れ家的な雰囲気がなくなって広々とした風景に変わっていましたが、玉川上水の周囲の土手の木々と歩道はそのままでした。
むしろ、自転車用道路が別になったので、あの狭いぬかるんだような歩道で前から後ろから来る自転車を避けながら歩く面倒さがなくなりました。


この放射第5号線の久我山区間は工事中なので実際には車が走っていませんでしたが、開通したら、車や自転車を気にせずに公園の中を散歩しながら歩ける歩道として、近未来の歩道のモデルになりそうなゆったりした道になっていました。


東京都建設局の東京都市計画道路放射第5号線事業を読むと、あの喧々諤々で反対運動が続いていた時期から事業が認可されるまでに10数年かかっていたようです。
都市計画道路の計画が立てられてから建設までに半世紀もかかるのですから、気が遠くなる話ですね。


50年後の世の中を予想するのは、短期・中期・長期のどれになるのでしょうか。



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