赤ちゃんに優しいとは 10 <「赤ちゃんに優しい」と思い込み>

赤ちゃんのお尻ふきの変化について、「10年ひとむかしだなあ」と思ってその変遷を思い出しながら記事にしようとしたのですが、あまりになんだか違う世界が広がっていたので驚きました。


私が助産師になった1980年代終わり頃の産科病棟では、赤ちゃんのお尻ふきというと脱脂綿を切って水に浸したものでした。


最近は医療機関で脱脂綿そのものを見かけることが少なくなりました。
たとえば、注射の際の皮膚消毒につかうアルコール綿も個別包装になるなど、使用目的に応じて加工されているものがほとんどです。


当時は、幅30〜40cmぐらい、長さ2mぐらいだったでしょうか。脱脂綿そのものが包装されたものがありました。
それを夜勤などで時間がある時に、アルコール綿用に3cm角とか赤ちゃんのお尻ふき用に10cm角に切るのも業務のひとつでした。


そして切った脱脂綿を水道水で浸し、少し絞ったあと、薄くバラしてステンレス缶に入れたものが赤ちゃんのお尻ふきでした。


それ以外には製品化されたお尻ふきはまだ販売されていませんでした。


市販のお尻ふきを見かけるようになったのは1990年代半ばぐらいでしたが、普段使うには高価で外出用に使われる程度だったと思います。
ですから2000年ごろまでは、私が勤務した病院ではまだ、この綿に水を浸したものがお尻ふきとして使われていた記憶があります。
2000年前後を境に、商品化されたお尻ふきをそれぞれの赤ちゃん用に渡して使うようになりました。


お母さんたちは入院中はその綿と水の手作りのお尻ふきを使い、退院後には「便利で安価になった」市販のお尻ふきを使い始めていたので、お尻ふきの普及に関しては病院の方が社会から遅れていたのかもしれません。


この赤ちゃんのお尻ふきはいつごろから発売されたのでしょうか?
ムーニーやネピアのサイトでは1993年から発売と書かれていました。
一般社団法人日本衛生材料工業連合会のウエットテイッシュ。紙おしぼりについての「Q8 『ウエットテイッシュ』の歴史について教えてください」では、「ウエットテイッシュは、赤ちゃんのお尻ふきとして1970年代初頭にアメリカで誕生しました」と書かれています。


ほぼ20年遅れで、日本に広がり出したようです。


紙おむつは1980年代には販売されていますから、お尻ふきが商品化されるまで時間がかかっ理由は何だったのでしょうか。
まだ割高感があったとか、こうした使い捨て商品への抵抗感か、それとも赤ちゃんの皮膚に何か「化学物質」が添加されたものを使うことへの抵抗感とかでしょうか。


<思いっきり個人的な体験談ですが>


最初の頃は、こういう商品化されたお尻ふきを使うことが「もったいない」という感覚がありました。よく考えれば、脱脂綿だって高価でお産に使うのもはばかられた時代が近年までありましたから、便利になることへの潜在的な抵抗感だったのかもしれません。


反面、アルコール綿の記事でも書いたように院内感染予防の知識が広がった時代ですから、手作りのお尻ふきは雑菌の温床になる可能性があることが、こうした商品化されたお尻ふきをそれぞれの赤ちゃんに個別に使用するメリットとして一気に現場で受け入れるようになった理由だと思います。


さて、思いっきり個人的な体験談に基づく感想ですが、この市販のお尻ふきを使うようになってからは、入院中にオムツかぶれの赤ちゃんを見ることがほとんどなくなった感じです。
もちろん退院後はもっとうんちの回数も量も増えるので、オムツかぶれができる赤ちゃんはいますが。


新生児は生後2〜3日目ぐらいで移行便から母乳便に変化しますが、便の性状が変化し回数も多くなるので、以前は退院までにすでにお尻が真っ赤にただれる赤ちゃんもいました。


水道水に浸した脱脂綿だけではうんちの成分を拭き取れないので、石鹸を使ってお尻を洗い、そして軟膏をつけて保護する必要がありました。


そういえば最近、入院中の赤ちゃんでオムツかぶれになる赤ちゃんが減ったような気がするのは、この水以外の成分が含まれているお尻ふきのおかげかなと思っていました。


でも、最近、「水だけで作られた」というようなお尻ふきを見かけるようになり、「水だけでは拭き取れなかった」という私の実感とは違うのでおかしいなあと気になっていたのでした。


<「赤ちゃんに優しい」は要注意かもしれない>


いろいろと検索していると、ムーニーのサイトにこんなことが書かれていました。

近年、ママたちは「赤ちゃんに優しい素材や成分で安心して使用したい」というご要望が高まっております。それに伴い、2012年10月に『ムーニーおしりふき こすらずスッキリ』と『ムーニーおしりふき やわらか素材』の薬液処方を、「パラベン無配合」と「純水99%」へ改良し、ママたちから支持をいただいております。


パラベンとか純水って何だろうと検索していると、「市販のお尻ふきは使わない」というお母さんたちのブログなどが出てきます。
外国で子育てをしているあるお母さんのブログでは、その国の助産師から「市販されているものならパラベンが入っているものではなく、コットンにお水だけ浸してあるものを買ってください」と言われたことが書かれています。


その理由として、パラベンはアレルギーを引き起こすらしいということが書かれたブログもありました。


でも、小児科の先生たちからは一度もそれらしい注意喚起を聞いた事がない話です。


パラベンパラオキシ安息香酸エステルについて検索したら、そのアレルギー説の経緯について書かれている「パラベンフリーの罠・・・本当は安全なパラベンのお話」というサイトがあり、こんなことが書かれています。

パラベンが嫌われている理由は"アレルギーを起こす可能性がある成分”として配合している場合には必ず明記しなければならない表示指定成分だったことでしょう。一部の化粧品メーカーが、パラベン表示指定成分だった過去を利用して"ウチの製品はパラベン使ってないですよ"というキャッチコピーを多用したせいで"パラベン=危ない?"という誤解がすっかり広がってしまいました。

その続きの「むしろ天然由来のほうが危険!?化粧品選びのポイント」まで、とても参考になります。


パラベンとか純水の効果といった知識は全くないのですが、水だけでは落ちなかったうんちやおしっこが市販のお尻ふきではよくとれるからオムツかぶれが減ったのかもしれないという私の感覚とはまったく違う世界が、「赤ちゃんに優しい」という言葉とともに広がっているようです。




「赤ちゃんに優しいとは」まとめはこちら