現在では、「初乳」についての栄養的な重要性を疑う周産期スタッフはいないと思います。
ただ、なぜ「」つきで「初乳」と書いたかというと、初乳の定義はいまもまだ文献によってまちまちなのです。
特にいつからいつまでを初乳というのか、あたり。
今回はちょっと退屈な話ですが、初乳とはなんぞやについてです。
<初乳・移行乳・成乳という分類>
「母乳哺育と乳房トラブル 予防対処法 乳房ケアのエビデンス」(立岡弓子氏、日総研、2013年)の「分泌期による母乳の特徴」の分類がわかりやすいので引用します。
初乳
分娩後5日目までに産生される乳汁であり、黄色で粘稠性がある。初乳に粘稠性があるのはタンパク質が豊富に含まれているためであり、また黄色を呈しているのは、βーカロチンというビタミンAの前駆物質が含まれているためである。初乳には、免疫グロブリン、総タンパク、脂溶性ビタミン、ミネラル(無機質:カルシウム、鉄など)が多く含まれている。
移行乳
初乳と成乳の間の期間で産生される乳汁であり、初乳に比べて免疫グロブリン、総タンパク量は減少している。乳糖、脂肪、ビタミンB・Cは初乳に比べて増加するが、ビタミンA・D・E・Kは成乳のレベルまで減少していく。
成乳
分娩後7日目ごろから分泌する、白いさらさらとした乳汁である。成乳には、タンパク質、脂肪、乳糖、ビタミン、ミネラルといった栄養素が人工乳に比べて豊富に含まれている。1回の授乳の中では、授乳の初めに分泌される乳汁中の脂肪濃度は低く、後半の乳汁中の脂肪濃度は高くなる。新生児の脳の成長に必要なDHA(ドコサヘキサエン酸)やAA(アラキドン酸)という長鎖脂肪酸が含まれている。また、脂肪分解酵素のリパーゼも含まれているため、脂肪が効率よく消化され児の栄養源となる。
この「初乳・移行乳・成乳」の分類が一番、私にはわかりやすいのですが、最近ではさらに違う分類方法もあるようです。
<違う視点での分類方法>
「母乳育児支援スタンダード」(日本ラクテーション・コンサルタント協会、医学書院、2008年)では、「初乳」「移行乳」「成人乳」という表現や分類ではなく、「産後3〜5日の初乳と、産後1か月近い成熟乳」として、その内容の変化が説明されています。
また、「小児内科 特集ー母乳育児のすべて」(東京医学書院、2010年)の「母乳分泌の生理」では、「乳汁生成」という視点で分類されています。
ちょっとややこしいのですが、こう書かれています。
乳汁生成1期
脂肪球が分泌細胞に蓄積し、血漿中の乳糖とαーラクトアルブミンの濃度が上昇する。そして、乳汁の小滴が分泌される。この時期に分泌される乳汁は初乳と呼ばれ、Na、Cl、免疫グロブリンなどの感染防御因子を多く含む。(以下、略)
乳汁生成2期
分娩時に胎盤が娩出されると、プロゲステロン、エストロゲン、hPLの母体血中濃度が急激に低下し、乳汁生成2期の引き金になるが、乳汁分泌が確立されるためには、プロラクチン、コルチゾール、インスリンなどが必要である。このように、乳汁生成2期はホルモンの変化によって開始されると考えられている。
乳汁分泌は通常分娩後36時間から96時間ぐらいで著名に増加しはじめ、その後一定となる。乳汁分泌が増加し確立するまでの時期を乳汁分泌2期とよぶ。乳汁生成2期は一般的には分娩後3〜8日間くらいをさす。
そして「分娩後約9日を過ぎて、乳汁生産が維持される時期を乳汁生成3期とよぶ」と書かれています。
たしかに母乳分泌「量」に注目すれば、こういう分類も可能かもしれません。
ただ、日々性状が変化していく母乳を見ると、分泌が増えても一見、性状は初乳に近いものもありますから、やはり「初乳、移行乳、成乳」の分類のほうが、母乳の量的・質的な変化をうまく表現できていると思います。
初乳の性状も量も、本当に個人差があり、また初産・経産でも違いがあると感じているのですが、そのあたりの複雑さまで含めて、「初乳」の定義をするのはとても難しいことだろうと思います。
「母乳のあれこれ」のまとめはこちら。