母乳のあれこれ 15 <みつめのぼたもち「こわい」>

経産婦さんは産後2日目ぐらいから、初産婦さんでは産後3日目ぐらいから急激におっぱいが張り始めます。


経産婦さんの場合は、乳房うっ積というよりもすでに乳汁分泌量が増加したことによる乳汁うっ滞の状態が多いことは、こちらの記事で書きました。
見た目は化膿性乳腺炎にでもなったかのように重症感がある場合もありますが、経産婦さんのこのおっぱいの張りは、適切に深い乳腺まで母乳を分泌させるような飲ませ方をすれば2〜3回の授乳でおさまっていきます。


それに対して初産婦さんの場合は産後3日目頃から、平均して2日間ぐらい張りが強い日が続きます。
最初の日は張りが強い割りには、搾乳をしてもあまり出ない乳房うっ積と呼ばれる状態ですが、翌日になると一見強いおっぱいの張りのようでも、射乳反射がおきて母乳分泌量が一気に増えていきます。


経産婦さんのお産が、軽い陣痛でもどんどんと子宮口や産道が柔らかくなるように、おっぱいも一度授乳を体験しているだけで、こんなにも「適応」するのかと驚くような違いがあります。


このあたりの初産と経産婦さんの産後2〜3日目の乳房緊満の違いについてさえ、まだまだ助産師あるいは周産期医学のなかできちんと書かれた文献がないのが現状です。


<初産婦さんの乳房管理の怖さ>


お産も初産婦さんの場合、時間がかかったり吸引分娩が必要になったり複雑な経過になりやすいように、乳腺が開通していくまでの経過も時間がかかり、思わぬひどい状態になることがあります。


「乳腺が開通」というのは、ちょっとさわって「おっぱいが何本の腺から出ているか」数えてわかることではなく、乳房の奥の方の乳腺まで刺激されて分泌をし始めた状態と私個人は考えていることは、こちらこちらで書きました。


さて、初産婦さんの張り始めの日は全体に硬い部分が触れたり、赤くなって熱を持ったり、乳輪までむくみが出たり見た目にはほんとうにひどい状態になる方もありますが、ほとんどの方は、翌日には改善されます。
多少、部分的に硬結が残っても、数日ぐらいで柔らかく「開通」していきます。


あるいは中には熱感が引いてもしばらくの間、全体にまるで「型」を入れたかのように硬いままの方もいらっしゃいますが、およそ2〜3週間で急激に柔らかくなっていくようです。こういう方は、30代の分娩が増加するのに伴って増えたような印象がありますが、まだまだ明らかになっていないことばかりです。


ほとんどの初産婦さんが産後3〜4日目のこうした時期を過ぎて、順調に母乳が出始めます。


ところが時に、いえ、本当にこれもまた産科に勤務している間に何回遭遇するかどうかというほど稀なことが起こります。


片方の乳房の半分から3分の2ぐらいにかけて広範な硬結が残ってしまって、それが1ヶ月以上も続くことがあるのです。
乳輪のあたりまで硬結ができますから、赤ちゃんも吸えませんし、まるで石のような硬さで搾乳を試みても全く反応しません。


おそらくこの産後すぐの乳房うっ積の時期になんらかの理由で、「乳腺が詰まった」状態が改善できなかったのではないかと考えています。


こうした産後すぐに広範囲の硬結ができてしまった方が、私の経験では3人ほどいらっしゃいますが、それほどに稀にしか起こりません。
いずれも初産婦さんでした。


助産師になったときから自分の勉強のために産後フォローをさせてもらったり訪問させてもらっていましたので、この広範囲な硬結ができた方たちも週に2〜3回訪問し、搾乳を手伝いながら経過を見ることができました。
ひどい硬結の割には熱を持つことがなく、自然とその片側は分泌が抑えられているようでした。


少しずつ少しずつ搾乳による乳管開通で硬結部分が小さくなり、ほとんど柔らかくなるのに1ヶ月ほど要しました。
その間、お母さんは反対側の片方のおっぱいだけでの授乳です。


3人のうち最初に関わったお一人は、乳腺膿瘍で切開・排膿が必要になりました。


<乳房うっ積の始る時期の食べ物>


どの方も、産後3日目ぐらいの乳房うっ積が過ぎた翌日にはすでに広範囲の硬結ができていたと記憶しています。
出産直後から積極的に授乳をしていた施設でも起こりました。


この乳房うっ積の始った日というのは、「食べたあと急に張る感じが強くなる」とおっしゃるお母さんたちがほとんどです。
「怖くて食べられない」という方も中にはいらっしゃいます。


特定の食べ物がそのままおっぱいの成分になって「ドロドロなおっぱい」にすると考えている助産師は少ないとは思いますが、こうしたお母さん達の様子を観察することによって、食事が何らかの形で乳房緊満感を強めるのではないかと多くの助産師は感じているのではないかと思います。


私が助産師になったばかりの頃に読んだ本か当時一緒に働いた当時70代の先輩が言ったのか記憶があいまいなのですが、「昔は、このおっぱいの張りが終わる時期まではおかゆとかカロリーの少ないあっさりした食事にして、出がよくなるとぼた餅とか山盛りのご飯とかをおっぱいのために食べさせていた」という話を聞きました。


ちょうどこの乳房うっ積が始る頃に、みつめのぼたもちや中にはケーキを何個も持ってこられるご家族がいらっしゃいます。


ひどい場合には片側のおっぱいが授乳できなくなるほどのトラブルを起こす可能性もあるこの乳房うっ積の1日は、それを知る助産師にとっては本当に「ぼたもち『こわい』」のです。




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