母乳のあれこれ 19 <ドロドロの母乳と後乳・・・どのように検証したのか>

「飲み初め、飲み終わりとでは成分と味がちがう」ということが母乳のすばらしさのひとつのような表現を目にすることが多くなったこと、そして特に「飲み終わり」の頃の母乳は脂肪分や脂溶性ビタミンが多く含まれる「後乳」と呼ばれていることを前回書きました。


ただし、まだ学問的に認められた言葉ではないのでしょう。


<どのように検証されたのか>


これは実際に、どのように確認(検証)できるでしょうか?


赤ちゃんが飲んだ母乳を、飲み始めと飲み終わりの時期それぞれに胃内容吸引をしてその成分を比較すればわかると思いますが、赤ちゃんへの負担がかかりますから倫理上なかなかできる検査ではないことでしょう。
実際にそのような方法で検証した研究があるのかどうかも、私はわかりません。


おそらく、搾乳をして「搾り始め」と「搾り終わり」の成分の比較をしたのではないかと思います。
「母乳育児支援スタンダード」(日本ラクテーション・コンサルタント協会、医学書院、2008年)に掲載されている「母乳(前乳、後乳)における脂肪組織の脂肪組織の変化」(p.108)の5本の母乳サンプルも、説明がないのですが、おそらく搾乳によるものではないかと思います。



上記の本に書かれている「脂肪の組成の変化」を、再度、引用します。

脂肪の濃度は母親の食事に影響され、脂肪酸の組成は食事によって変わる。一般に、脂肪は初乳には少なく成熟乳に多く、朝は少なく、午後に増加する。また、分泌しはじめの母乳(前乳)に比べ、後半の母乳(後乳)のほうが脂肪の濃度が上がる。脂肪の濃度は、射乳反射が起こるたびに増えていく。また乳房から乳汁が排出されるにつれて増え、乳汁で満たされると低下する。

この箇所の引用文献として1990年代の海外の文献が挙げられています。私にはその論文を探して確認するまでの時間と力もないのですが、前乳と後乳の比較のための母乳サンプルは、搾乳、しかも搾乳器によって採取されたのではないかと推測できます。


最初に出始めたものをサンプルにし、しばらくしたらまたサンプルをとって・・・というような。


であるならば、それは「全ての乳腺から一斉に、同時に母乳分泌が起こる」という思い込みが入ってしまっているのではないかと思えるのです。


<それぞれの乳腺が一斉に分泌するわけではない>


そのあたりは、乳輪の刺激で射乳反射が起こる状況を常に観察している桶谷式マッサージをされている方々であれば、おそらく異議を唱えることでしょう。


「乳質」と表現されてきたことのひとつが、「よく分泌されている乳腺」と「うまく分泌されていない乳腺」の母乳の性状だと思います。
「ドロドロのおっぱい」という表現がよく使われていたと記憶しています。


「3時間ごとに飲ませる」ことにこだわったのも、「時間がたったおっぱいはまずくなる」というとらえかたでした。
実際に、数時間ぐらいたつと搾乳の初めには黄色味をおびたやや濃縮したような母乳が出ることがあります。
その後、射乳反射がおきると「あっさりした半透明の母乳」が出始めます。


また乳頭の表面の乳管開口部をみると、10本程度の開口部の色も「味」も違います。
うまく飲まれていなかった方向からわきあがるものは、一見濃縮したような母乳が出て、「渋み」「しょっぱさ」を感じるのです。


現在では「感染予防対策」の観点から他人の体液である母乳をなめるなんて考えられないことですが、1990年代初めの頃,、CDC(アメリカ疾病予防センター)の標準的予防策の考えが入る前は私も母乳の味見をしたことがあります。


つまり、「よく飲まれている乳腺」と「うまく飲まれていない乳腺」では母乳の色も濃度も変わります。


そしてこちらの記事で初産婦さんのおっぱいがどのように「開通していくのか」について、表面に近い乳腺からしだいに奥の乳腺が開通しているのではないかと書きました。


桶谷式マッサージのような方法で射乳反射が起きる様子を観察すると、乳輪の刺激によりピューッと勢いよく湧き上がったあと、しばらくすると一旦出なくなります。
そのまま乳輪を刺激し続けると、また再び射乳反射がおきます。
一見、同じ開口部から分泌されますが、乳腺体の硬さがそれに伴って軽減していく状態は、「先ほど射乳反射を起こした乳腺よりも奥」の手ごたえです。
そして何度か射乳反射を繰り返しているうちに、とても濃い母乳が出始めます。


「脂肪の濃度は、射乳反射が起こるたびに増えていく」
たしかにそう言えますが、同じ1本の乳腺から何度も射乳反射がおきてグラデュエーションを描いて濃くなっているミラクルではなく、別の乳腺から、それまであまり活用されていなかった部分から濃縮された母乳が出るということではないかと私には思うのです。


母乳のミラクルかのように「後乳」という言葉を広めてしまう前に、もう少しどのような検証がされたのか知りたいものです。




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