母乳のあれこれ 5 <母乳が「出すぎる」というのはどういうことか>

「母乳が出すぎて困った」という方がたまにいらっしゃいます。
本当に「水を飲んだだけでも張ってくる」こともあり、「困った」を越えた恐怖感が湧き上がるような状態で悩まれる方もいらっしゃいます。


「母乳分泌過多」とか「母乳分泌過多症」と臨床では表現していますが、実際には手元にある1990年代からの周産期医学関係の本を探しても、この言葉を定義しているものは見当たらないのです。


今、ざっと見直してみて「周産期診療指針2010」(『周産期医学』編集委員会編、東京医学社、2010年)の「乳腺炎」(p.468)の中でさらっと記述されていた部分がある程度です。

2.乳汁分泌過多の対応


1)まず搾乳で対応する。
2)それでも分泌過多となる症例ではドパミン作動薬の投与を検討する。

ドパミン作動薬というのは、母乳分泌を高めるホルモンのプロラクチンを抑える働きを持つ薬です。


「母乳分泌過多」の原因のひとつに高プロラクチン血症があるらしいことは私もずっと耳にしてきましたし、実際にそう診断されて処方された方の記憶もあります。
中には「病的」な分泌過多の場合もあるのかもしれません。


ところが、どのような状態を「母乳分泌過多」とするのかという診断基準も、「高プロラクチン血症による母乳分泌過多症」という診断名についての説明も見つかりません。
あるいは、どれくらいの割合で起きているのかもわかりません。


おそらく、お母さん自身の「張りすぎてつらい」「搾っても楽にならない」あるいは「搾りすぎると余計に刺激になるので、搾らないで冷やしているけれども張りがおさまらない」という訴えから、臨床側が便宜上、呼んでいることが多いのではないかと思います。


日頃、使っている「母乳分泌過多」あるいは「出過ぎる」について、案外まだまだわかっていないことだらけなのではないかと思います。



<「乳管開通」とは違う「母乳分泌」の表現が必要ではないか>


こちらの記事で、「乳腺が開通する」とはどういうことなのか、そして「乳管の開口部の数」を数えても母乳分泌の状態を表現しているとは言えないのではないかということを書きました。



特にそれがわかりやすいのが経産婦さんのおっぱいです。


経産婦さんの場合、昨日の記事で書いたように、産後2〜3日目ぐらいで起こる強い張りも初産婦さんの「乳房うっ積」とも違うことを書きました。


初産婦さんの張り始めの乳房うっ積の場合、搾乳をしてもあまり母乳は出ないし張り感も軽減しないどころか張返してくることもありますが、経産婦さんの場合には少し搾っただけで10ml、20mlと搾れます。


ところが乳管の開口部数は、初産婦さんと対して変わりありません。


ところで経産婦さんの場合、この張り始めの強い張りの時に、「ただただ頻回に直接吸わせる」あるいは「少し搾る」だけでは、どんどんと張りが強くなってしまうことをしばしば体験します。
「ラッチ・オン、ポジショニング」という呪文も、ほとんど役に立たない状態です。


ここに、母乳分泌と張り感を考える上でのポイント、あるいは「分泌過多」と言われていた状態を説明できるポイントがあるのだと思います。


体験した人にはわかるけれど、それ以外の方にはちょっとわかりにくい話ですみません。
もう少し、「母乳はどのように分泌されるのか」考えてみようと思います。





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