新生児のあれこれ 52 <生理的体重減少についての変遷>

出生後2〜3日は、新生児の体重は通常、減少する。
これを「生理的体重減少」として、1970年代終わりの看護学生の頃にも、そして80年代終わりに助産婦学生だった時にも習いました。


たとえば、「最新産科学 ー正常編ー 改訂第19版」(真柄正直氏著、室岡一氏改訂、文光堂、昭和61年)では以下のように書かれています。

生理的体重減少


新生児の体重は生後2〜5日の頃、一時的に減少する。減少の割あいは初日に最も強く次第に弱まる。この減少の最大値は分娩直後の体重の4〜5%にあたるが、母乳分泌の状態、児の生活力によって一様でない。この減少が初期体重の10%以上に上るものは病的と考えてよい。この体重減少は、哺乳量の不十分、体表面からの水分の喪失、排尿、排便などによるため、生理的体重減少とよぶ。


この本は当時の産科医向けのテキストで助産婦学生も使用していたのですが、今読み返すと「新生児の生活力」なんて表現がでてくるところにちょっとびっくりしますね。


また減少の割あいが「初日に最も強く」と書かれていますが、必ずしもそうとは言えないのではないかと、さまざまな新生児のパターンをみて思います。
2日目から4日目あたりで、急激に減少する赤ちゃんもけっこう見かけます。
このあたりの体重の増減に関しては、黄疸も関連しているのではないかと私個人は推察していることを「新生児のケアと新生児黄疸」に書きました。


それでも、1960年代ごろからようやく、ほとんどの新生児が医療機関観察され始めたことを考えると、わずか20〜30年ほどで、この「生理的体重減少」が明らかになったといえるのではないかと思います。


新生児の体重が減るのは、病的なことではなく生理的な変化である。
それが明文化されたのは、それほど昔ではないのかもしれません。



<「生理的体重減少」はどのようにとらえ直されているか>



新生児の変化の中で、この「生理的」という表現が使われている状態にもうひとつ「生理的黄疸」があります。
生後2日あたりから皮膚が赤黄色になって黄疸の時期に入りますが、これも一時的な変化であって、病的なことではないとされています。


ただし黄疸の場合には、ある基準値を超えると病的とされて光線療法などの治療の適応になります。


ところが、生理的体重減少についてはどこからが病的かという線はあまり明確にできないようです。
たとえば「小児科学新生児学テキスト 全面改訂第3版」(診断と治療社、2000年)では、「新生児は生後2〜3日の間に出生体重の5%程度の生理的体重減少を示す」(p.737)とだけ書かれています。


「ベッドサイドの新生児の診かた」(河野寿夫氏、南山堂、2009年)では、「生理的体重減少はほとんどの児で10%以内であるが、しばしば出生時の浮腫などの影響で数字の上でこれを越えるものもある」(p.127)と書かれています。


「周産期医学必修知識」(東京医学社)の第6版(2006年)や第7版(2011年)の中では、「生理的体重減少」という表現も見当たりません。


もしかしたら、この新生児の出生直後からの体重の変化については、まだまだ全体像が明らかにされていないことが多いのかもしれません。
「生理的」とは言い切れない、多様な状況の観察が始まったばかりといえるのかもしれませんね。


なんといっても、新生児が医療従事者によって継続的に観察され始めてまだ半世紀ほどですから。





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