乳児用ミルクのあれこれ 15 <母乳の免疫と栄養不足のトレードオフ>

日本ユニセフ協会が2012年9月に出した「十分なケアを乳幼児に」には以下のように書かれています。

新生児(生後1ヶ月未満)の死亡が増加している。1990年には5歳未満児死亡数全体の約10%であったが、現在では約40%を占めている

これは何を意味しているのでしょうか?


開発途上国で統計をとることは難しいので、たとえ国際機関が出している数字でも、本当に全体像を示したものか慎重になる必要もあるかもしれません。


それでもちょうどWHO/UNICEFが母乳推進運動を世界的に展開し始めた直後の1990年に比べて、現在は5歳未満の子どもたちの死亡のうち新生児が4割を占めるようになったというのは、完全母乳を目標とする運動とは無関係だったのでしょうか?



<母乳の免疫と母乳不足による栄養失調>


新生児死亡の割合が増加したことについての詳細な分析がないので推測でしかないのですが、本来ならこの生後1ヶ月までの間にミルクが必要であった赤ちゃんにも母乳だけで育てることが強調され過ぎたのではないかと私には思えるのです。


たとえば、ほぼ全員の出産が医療機関助産所を含む)で行われ母親の栄養状態がよい日本でも、こちらの記事に書いたように、生後2〜3週間でゆっくり出生時体重に戻り、ゆっくり体重増加していく赤ちゃんが一定数います。


こういう赤ちゃんに母乳を吸わせることだけで対応すれば、体重が−13%減少して、生命の危機に陥る場合もあります。


つまり、「母乳の免疫の効果」と「母乳不足による栄養失調」のトレードオフが「新生児死亡」であったり、「成長や発達を阻害する重症な栄養失調」ということなのです。


適切に調乳し、哺乳ビンなどの清潔に注意して乳児用ミルクを与えることで、新生児はこの生後1ヶ月までの危機を乗り越える力を持ちます。


2〜3週間かけてゆっくりと体重が出生時体重に戻ると、あとはぐんぐんと自力で体重を増やす時期に入り、それにともなって母乳分泌も増加していくことは日本の産院でもしばしば体験することです。
その後、児の状況によってミルクの補足を調節していけばよいことです。


ですからそういうタイプの新生児にミルクを足すことを躊躇してはいけないし、ましてやお母さんたちに躊躇させるような説明をしてはいけないのではないかと私は考えています。


WHO/UNICEFは、1990年以降の5歳未満の乳幼児死亡における新生児死亡の割合の増加を、どのように解釈するのでしょうか。




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