鶏が先か卵が先か 2 <民間資格より先に、ケアの標準化を>

日々、食事も休憩もとれないほどですが、粛々と産科ガイドラインに沿った業務内容の分娩施設で働いているので、アドバンス助産師誕生!というニュースもまったく無縁に感じています。


どこが「無縁」と感じるかは、日本助産評価機構という団体の助産師個人認証制度の「制度概要」に書かれている以下の部分です。

日本は、助産師の免許制度は更新制ではないため、免許取得後に、助産師個人の経験や学習による能力を知る術はありません。さまざまな、周産期医療提供環境によって助産師の実践能力の低下が懸念されている現在にあっては、計画的に助産実践能力を強化し、その能力を第三者に示すことは不可欠です。レベル3を認証された助産師は、「自律して助産ケアを提供できる助産師」として、公表することができます。


この部分は、「アドバンス助産師」の意義として、あちこちで見かけました。
どこを切っても金太郎のように。


きっとなんだかわからないけれど制度に乗り遅れまいとした人たちには、背中を押されるひと言になっているのではないでしょうか。


たしかに助産師の免許更新制度はありませんが、本当に「助産師個人の経験や学習による能力を知る術はない」のでしょうか?


<日常の中でどのように能力を判断しているか>


産科診療所に勤務するようになってから、総合病院で働いていた頃よりも多くの助産師・看護師に出会いました。
それだけ産科診療所は人の出入りが激しい、ということでもありますが。


たいがいは、履歴書の内容と数日一緒に働いてみることで、おおむねその人の能力のレベルはわかるのではないかと思います。


卒業後、基礎的な知識や技術を取得する3〜4年を同じ病院に勤務していない人、1年未満で転々と職場を変えている人は、まだすぐに業務を任せることには躊躇します。


数年以上のブランクがあったり、他の仕事に転職してからまた戻って来た場合なども、「昔取った杵柄」だけで対応しようとする人には注意が必要ですね。


それから桶谷式とかIBCLCとか、トコちゃんとか、何とかマッサージとかの民間資格助産師資格と並列して書いてくる人にも警戒心が出ます。
個人の関心であればかまわないのですが、「この方法が正しい」とお母さんたちやスタッフに勧めてしまわないか心配です。


あとは、新しい職場に移った直後というのは「自分がいままでどれだけ働けていたか」「自分がどんなによいケアをしていたか」をアピールしたくなるので、強がった言動をとりやすいものです。
所変われば多少方法が変わることが許容できずに、「この施設の方法はおかしい」と批判的になり、結局は長続きしなくてすぐにやめてしまう傾向にあるようです。


論外なのは「人間としてどうか」と思うほど、お母さん達やスタッフへの無遠慮な言い方や態度をする人もいて、でも仕事はそこそこできるのという人はどう対応したらよいか本当に悩ましいものです。
人間関係でのトラブルは医療事故にもつながりかねますから、試用期間内で判断したほうがよさそうです。


ですから、履歴書に「アドバンス助産師」と書かれても、現場ではあまり意味がないように思います。


<知識・技術量を何で判断するのか>


以前は、分娩の処置や対応の考え方は各分娩施設でそれぞれでした。
他の施設で働いている助産師仲間から話を聞いて、「へえ、そんな方法もあるのか」とようやくわかるぐらいでした。


ここ10年ほどで、周産期医療に従事する看護職にもわかりやすい方針がまとめられました。
それが日本産婦人科学会の「産婦人科診療ガイドライン」です。


もちろん、あくまでもガイドラインなので「答えはこれしかない」わけではないので、細かいところでは産科医の経験や考え方で施設間での違いがあると思います。


それでも、概ね現在の産科の方針はこのように考えられていることを知らずして、助産師もお産の正常と異常の境界線がわかるはずがないわけです。


ところが、まだこのガイドラインの存在すら知らない助産師もいますし、知っていても内容に目を通したこともない助産師もいます。


業務の核となる方針を知らないまま働いているから、勝手な理論や方法を編み出す助産師が絶えないのだと思います。
あるいは「正常なお産は助産師で」という思想にしがみついてしまうのでしょう。


産科ガイドラインの内容を知り、それを実践するために必要な技術は何か、自ら考え自ら不得手な部分をなくしていく。
そうすれば、おのずと妊産褥婦さんと新生児に必要なケアの標準化がされていくと思うのですけれど。


免許更新制度の前に、その免許が担保している業務内容のレベルを明確にする方が先だと思いますね。







「鶏が先か卵が先か」の過去記事はこちら
「アドバンス助産師とは」のまとめはこちら