アドバンス助産師とは 11 <はしごをはずされた人もいるのではないか>

こちらの記事で「たかだか100例ぐらいの分娩介助数」と書きましたが、それへの到達にはるか及ばないまま、助産師としての今後をどうしようか悩んでいる人たちがいることでしょう。


「アドバンス助産師」とは日本看護協会のクリニカルラダー(p38〜)でいえば、「レベル3」で経験年数5〜7年以上の助産師を想定しているようです。


ところが、「レベル2」「レベル1」どころか「レベル新人」で周産期センターを離職して、小規模な産科診療所に応募してくる助産師もいます。


いろいろ悩んだ末に、研修制度やプリセプターシップといった卒後教育制度が整った環境を辞めてくるのです。


小規模な産科診療所では少ないスタッフで分娩から緊急帝王切開まで対応していますから、即戦力を求められます。


やはり、長く続かずに辞めていきます。
「石の上にも3年」のつもりで働けば、なんとか中堅にまで到達できるのではないかといろいろと配慮したのですが。


根気がないとかではなく、「私の求めているお産や職場とは違う」という葛藤が強いようです。


なんで、まだ新人から2年目ぐらいでそんなに理想像に凝り固まっているのだろうと不思議な気がするのですが、気持ちの問題なのでそれ以上、私たちにはどうすることもできません。


その後も他の施設を転々としているのでしょうか。


私たちにすれば新人レベルのスタッフのオリエンテーションや分娩介助のフォローというのは、通常業務にプラスαどころか、何倍かの業務量になります。


ところが、「お産は取りたい」でも「合わなかった」だけで去って行くのですから、徒労感は半端ではありません。


<「新卒助産師研究ガイド」より>



冒頭の「助産師クリニカルラダー」が出されたのが2013年ですが、その前年に「新卒助産師研修ガイド」が出されています。


6ページには、新人看護職員についてこんなことが書かれています。


医療の高度化や在院日数の短縮化、医療安全に対する意識の高まりといった国民のニーズの変化を背景に、臨床現場で必要とされる臨床実践能力と看護基礎教育で修得する看護実践能力との間には乖離が生じている。新人看護職員の中には「配置部署の専門的知識・技術が不足している」「基礎教育終了時点の能力と看護現場で求められる能力とのギャップを理由に、早期離職するケースが見られる。

2009年度の新卒看護職の離職率は8.6%と減少傾向にあるが、新卒就業者数47,000人のうち約4,000人が去ったことになる。新人看護職員の離職防止のためにも、基礎教育の充実を図るとともに、臨床実践能力を高めるための新人看護職員研修の充実が期待されている。


看護師さんたちが、新卒でそんなに離職率が高いとは初めて知りました。
多くがまずは急性期病院に就職することでしょうから、教える側も教えられる側も大変だろうなと、この10数年ぐらいの総合病院の変化を見て思います。



さて、その7ページあたりから「新卒助産師を取り巻く現状と課題ー新卒助産師研修が求められる理由ー」が書かれています。


具体的に、新卒助産師あるいは1〜2年目ぐらいの助産師が離職したり職場を変えているのかは、そこには書かれていませんでした。


「新卒を取り巻く環境」のこのあたりが、なかなか「分娩件数100例」に到達できない理由だろうと思います。

3. 入職する新卒助産師の人数は施設の規模に関わらず、多くの場合、数人である。そのため新人看護師と一緒に研修を受ける体勢にあり、入職1年目から、看護業務の基礎的な技術修得をするという理由で、配属される部署が産科系以外になることもある。
4. 分娩件数の減少に伴って、産科病棟の複数診療科による混合化が加速している。地域周産期母子センターでも、混合病棟で運営している施設もあり、新卒助産師は、妊産婦に対する助産業務に加え、他科の患者ケアも行っている。


このあたりは、医療全体の変化にも対応しながら卒後研修のシステムを作って行かなければ行けないので、なかなか理想通りにはいかないと思います。
周産期センターや総合病院で新卒助産師を育てている方々には、本当に感謝ですね。


まずは早期に離職しないような卒後研修システムや、諸事情で卒後研修が途切れた助産師をどのように育ててけるのかを考えるのが先のように思います。



このままでは、すでに卒後何年もたってもまだ分娩介助経験数100例に満たない人たちは、たとえどんなに分娩以外の臨床経験を積んでも「アドバンス助産師」とは認められないことになってしまいます。


きっとはしご(ラダー)をはずされたと感じることでしょう。


なんだか問題点や解決策の議論を深めることなく、拙速に制度が作られている感は否めません。



<「助産師の定義」とラダーの矛盾>



ラダーのレベル4を読むと、その目標は分娩に携わっている助産師にしか通用しない印象があります。


2005年にICM(国際助産師連盟)が出した「助産師の定義」が紹介され、当時は「家族やコミュニティを対象とした助産師の業務は、女性の健康、セクシャルヘルス、リプロダクテイブヘルスへと拡大している」と、分娩施設外での助産師の「自律した」活動が勧められました。


更年期や思春期を対象として開業したり、百花繚乱の開業を選択する助産師もいました。


10年もしないうちに、「お産をとること」に重点がおかれた認証制度に方向転換されたわけですから、「助産師は全ての女性を対象に」と昂揚感をもったこうした人たちもはしごをはずされたと感じるのではないでしょうか。






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