「医療機関ごとの出産費用・分娩実績が一目瞭然」という厚労省から公開されていた「出産費用の見える化について」を読んでみました。
日本の分娩の全体像ともいうべきデーターですが、今まで厚労省は把握していなかったのかと逆に驚きました。
わざわざ厚労省がサイトを作らなくても、施設側にこの情報をホームページに掲載するように勧めるぐらいで良いのではないかと思いますね。
*何を「見える化」したいのか*
その中の分娩施設の概要の「助産師数」が「助産師数」「アドバンス助産師数」に分けられて、欄外にこんな説明が書かれていました。
上記助産師のうち、アドバンス助産師の数です。アドバンス助産師とは、日本助産評価機構が一定水準以上の実践能力を持つ助産師を認証する仕組みです。
ああ、まだアドバンス助産師という民間資格があるのかと久しぶりに思い出しました。
通常の就職では問われることがない民間資格で、あえて「助産師」を分ける意味は何でしょうか。
院内助産という言葉も使われているので、やっぱり助産師の「別」の世界があると久しぶりにいろいろ思い出しました。
*「正常なお産」にこだわっていたはずなのに健康保険に入り込む*
もしかするとまた一部の助産師の動きがあるのかなと検索していたら、こんな提言がありました。
正常分娩を保険適用の対象とする「出産保険」制度の創設を求める提言
令和5年4月27日
1) 正常分娩を保険適用の対象とする「出産保険制度」の創設
正常分娩は病気やけがではないなどの理由から現在は保険が適用されず、「出産育児一時金」で支援されている。しかし、出産費用には地域間格差があり、出産育児一時金で出産費用を賄える地域もあれば賄えない地域もある。出産は、先の読めない不安だらけの旅のスタート地点のようなものである。スタート地点がどこであろうと、すべての旅人に「この旅に最低限必要なもの」を手渡したら、誰もが安心して旅立てるのではないだろうか。正常分娩を保険適用の対象にすることで、最低限必要となる出産費用を全国一律化し、子育て世代の経済的負担を軽減し、安心して出産・子育てができる環境を整えるべきである。
「出産は、先の読めない不安だらけの旅のスタートのようなものである」と文学的表現でぼやけていますが、出産費用に地域間格差があるという問題に対して「最低限必要となる出産費用を全国一律化」は答えにならないのではと思うのですが。
「出産ケア政策会議」という団体による提言で、そんな会議があるのかと検索してみました。
会議というより、「LMCマタニティ継続ケア担当責任者」という新たな民間資格の団体のようで、全国に8名のLMCがいるようです。
LMCとは、妊娠から出産・産後にかけて継続してケアを提供する助産師や産科医で、ニュージーランドのマタニティケア制度をモデルにしています。
そのサイトでは「開業助産師の継続ケア」では「出産直後のまた産みたいという気持ち」が78%に対して「勤務助産師の分業ケアでは50%」だそうです。
「開業助産師の継続ケア」だと産後うつ傾向は19.4%に対して勤務助産師だと44.3%だそうです。まあ、出典は日本の研究ではないようですが、10年ほど前まで「開業助産師」対「勤務助産師」で優越したイメージを生み出そうとしていた動きがまだまだ残っているようです。
どうりで、提言を出した方々の名前に見覚えがあると思いました。
法的には「正常なお産」だけしか対応できなかった昔の産婆さんたちから、出産の医療化が進んだこの半世紀ほどは助産師が当然看護師の資格も持ち、正常から異常まで全ての妊産婦さんや赤ちゃんに対応するようになった時代に「正常なお産を助産師で」にこだわり続けた人たちが、今度は健康保険にも入り込むのは全くつじつまが合わないのに気にならないのでしょうか。
そして自分たちが正統な助産師かのように政治的に動き、正常も異常も隔たりなく医師と共に対応してきた多くの助産師のはしごをはずすのだと、また新たな「助産師の歴史」を垣間見ることになりました。
それにしても前首相の「提言」だけで分娩施設の半世紀以上の歴史がひっくり返るような政策の変化は、どんな力関係によるものなのでしょう。
国会は何のためにあるのだろう。
そしてその期に乗じる人たちは何が目的なのだろう。
あの日(2022年7月8日)から考えたことのまとめはこちら。
合わせて助産師の「開業権」とは何かと助産師の世界と妄想もどうぞ。