看護基礎教育の大学化 27 <日本の「看護教育の大学化」はどこへ行くのか>

80年代ごろから急激に医療が高度化専門化したのは、日本だけではなくイギリスも同じ状況で、どうしてイギリスの場合には「全員を専門看護師として教育する」将来像を描けたのでしょうか。


当然、看護職も今までのように全ての診療科で働くことができるための教育は無理だから、学生のうちから専門を決めて学ぶ範囲をせばめ、さらに卒後も医療の変化に遅れないようにその専門分野の継続教育を受ける機会を確保する。
そして、それだけの能力と学習をしているかどうか、資格にふさわしい仕事をしているか、免許の更新と何を知る必要があるのか、専門分野ごとのガイドラインが示されている。


すごいなと思います。


昨日の記事で紹介した資料「イギリスにおける看護師の教育制度の変遷と看護職の現状」によれば、同じ問題に直面していたイギリスでは、1990年代以降改革したようです。


その改革の過程で、イギリスもまた「より質の高い看護教育を行って行くには、大学レベルの看護教育が必要」として、以下のような改革が行われたと書かれています。

基礎看護教育のカリキュラム改正、准看護師養成の停止、看護養成課程の大学化、看護教員の資質の向上、看護学生の地位の向上、継続教育コースの設置などが実施された。

日本でも看護協会を中心に90年代ごろから同じ方向性へと進んできましたが、30年ほど経過して蓋を開けてみたら、この我と彼の差はなんだろうと考えてしまいました。



<「看護はより専門的になっていく」ことに対応できなかった>


たとえばこちらの記事に書いたように、1970年代終わりから80年代初めの頃はまだ、アレルギー性疾患とか自己免疫疾患というのはようやく少しわかってきたぐらいだったので、教科書も薄く、患者さんへの対応もまだ確立していませんでした。


90年代に入る頃には、喘息や食物アレルギーなど予防や治療方法が次々と出されました。
現在では「アレルギー性疾患の看護」だけでも、その知識や技術は膨大なものになり、ひとつの専門看護分野になってもおかしくないほどです。


もはやすべての分野を詳しく教わるのは無理なので、学生のうちからあまりその専門に関係がない分野はさらっと学び、専門については時間をかける。



どこかでそのようなカリキュラムにしないと、「看護教育は3年では足りない」「4年でも足りない」「6年に」とどんどんと増えてしまうことでしょう。



日本の場合は、「大学」で4年間学んでも、医療や看護にとっては基礎教育を詰め込むために実習時間を減らしたり、保健師助産師の専門分野の学習時間を減らしてつじつまを合わせることになってしまいました。


実習での経験が少ない学生が継続教育も不十分な現場に送り出され、しかも自分の専門は何かも決まらないままにオールマイティを求められ、看護職としての生涯設計もたたない。
それが日本の看護教育の結果ではないでしょうか。



<専門分野を決められないので手当たり次第研修を受けるシステム>



イギリスの「看護資格と継続教育の充実」には以下のように書かれています。

イギリスの看護師資格の特徴は、資格取得のための国家試験がないこと、また基礎教育の段階ですでに専門領域を選択し教育を受けているため、看護師全員がいわゆる専門看護師として資格登録し、就労していると考えられることである。さらに、免許更新制度に関わる定期的な継続教育の実施やさまざまな教育背景や実戦経験を持つ看護師が学位を取得できるように大学や病院が多様な学習プログラムやコースを開設している。これらは、看護職が専門職としての責任と自覚を持つこと、そして看護職が生涯にわたって意欲的に専門教育を受け、常にステップアップしていくことが可能なシステムとなっている。

卒後教育や登録後教育については以下のように書かれています。

卒後教育や登録後教育はすべての看護師に対して、大学や病院施設が院内外のコースを設置して積極的に行われており、生涯教育や登録後教育プログラムには、アカデミッククレジットといわれる単位数が設定されており、その単位を積み重ねることによって学位を取得できる。

専門性を高めるため、助産師や保健師の免許を取得するためなど、意向に応じで学習期間や教育期間を選択できるようになっている。


3年ごとの資格登録更新のためには、「最低5日間(あるいは35時間)以上の継続教育を受ける必要がある」とされているので、当然、教育を受ける時間についても確保されているのでしょう。
日本のように、夜勤明けとか公休を使って研修に参加することもないのではないでしょうか。



日本でもここ20年ほどの間に、研修に参加するとポイントがもらえるシステムが導入されましたが、民間の研修プログラムに高額の参加費を出しても、「薪割りの自然なお産」「母乳育児」「なんとかマッサージ」といったこだわりの強い内容の研修が多いのとは大違いですね。


日本の看護教育の大学化は何を目指しているのでしょうか。




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