看護基礎教育の大学化 26 <「大学化」が目的ではなく、専門性が大事では>

助産師の業務だけでもローリスクからハイリスクまでその専門性の分化が著しい中で、オールマイティにはなれないと書きました。


他の看護職に至っては、もっと深刻なのではないかと思います。


産科にあまり関心がなかった私が海外医療協力のために助産師資格を取りましたが、正直なところ、ホッとしました。
「これで、周産期という一分野に集中して働くことができる」と。


というのも、私が看護師になった1980年代初頭は、まだ特定の診療科に対しての「専門看護師」とか「認定看護師」という資格がない時代でした。


現在でも多くの施設ではそうではないかと思いますが、配属された病棟で3年ぐらい働くと、本人の希望は多少考慮されますが、いきなり違う科へと移動になることが当たり前です。
たとえばどんなに婦人科癌の看護に関心があってもっと知識や経験を深めたいと思っても、「看護職だからどの科でもできて当然でしょう?」と、全く別の科へ移動させられるのです。


ひとつの病棟で3年働いたと言えば、「もう十分長くいた」とみなされます。
ベナーの看護論なんて全く理解されていないのが、日本の看護の世界といえます。


「関心のない科に飛ばされるぐらいなら、退職して違う病院で同じ科で働き続けたい」と転々と職場を変える一因にもなっているのではないかと思えるのですが、いかがでしょうか?



<看護師全員が専門看護師として資格登録している>



「免許更新制よりもケアの標準化を」で紹介した資料を偶然見つけたのですが、日本とイギリスの我と彼の差にちょっとショックを受けています。


「イギリスにおける看護師の教育制度の変遷と看護職の現状」は金沢大学医学部保健学科の方々が書かれたもので、「石川看護雑誌 Ishikawa Journal of Nursing Vol.3(1).2005」に掲載されているようです。直接リンクできないのですが、資料名で検索すれば見つかると思います。


その資料の「考察」に「看護師資格と継続教育の充実」として以下のように書かれています。

イギリスの看護師資格の特徴は、資格取得のための国家資格がないこと、また基礎教育ですでに専門領域を選択し教育を受けているため、看護師全員がいわゆる専門看護師として資格登録し、就労していると考えられることである。


その基礎教育は実際にどのようなものでしょうか。

イギリスでは、学生の段階から特定の専門領域を選択し、その専門教育を受けている。最初の1年間でCommon Foundation Program(CFP)という学生全員が共通した一般教養と基礎看護学と学び、その後2年間で選択した専門領域のBranch Program(BP)を学ぶ。専門領域は、成人看護(Adult)、小児看護(Child)、精神看護(Mental Health)、学習障害看護(Learning Disability)の4領域があり、大学によって、全領域を開設している大学もあれば、需要の多い領域だけを開設している大学がある。学習内容は、CFPおよびBPともに50%が学習、50%が理論という割合になっている。


その3年間が「看護師登録前教育」と位置づけられ、また「大学教育」と見なされているようです。
その資料だけではわかりにくいのですが、この登録後「看護職として仕事を継続するためにはNMC(看護・助産審議会)が規定する卒後教育と実務経験の要件を満たす」と書かれていますから、日本のように「大学の教育期間は4年間」あるいは「文部省の管轄であれば大学教育」、「3年間は専門学校」「厚労省管轄は専門学校」といった枠組みではなく、もっと専門性を重視したカリキュラムなのかもしれません。


いずれにしても、これだけ診療各科が細分化・複雑化しているのですから、看護職は看護資格だけでオールマイティを求められ、本人の希望しない科に半ば強制的に移動させる時代ではないはずです。
それこそ、看護職のキャリアラダーが明文化できにくい、根本的な日本の医療システムの問題ではないでしょうか。



ああ、なぜ日本の看護の世界にはイギリスのような発想が出てこないのだろうと、「合理的な思考」の足りない世界が透けて見えるようです。




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