乳児用ミルクのあれこれ 43 <「適切な授乳」を普遍的に考える>

「周産期・小児期専門の栄養士を地域内で派遣し合う」という壮大な理想ですが、乳業会社からの派遣ではどうしても自社製品の宣伝から逃れることができません。
たとえ、「うちの製品が一番売れています」とか「どこの製品よりも母乳に近づけています」といった内容を禁止したとしても、その会社から派遣されていること自体で会社の宣伝になってしまいます。


せっかく人類がずっと待ち望んでいた、安全に手軽に乳児に栄養を補足することが出来る製品を作り、1960年代までは最高の称賛を得ていた乳児用粉ミルクですから、その普遍的な価値をきちんと伝えていく方法を考えないと、また「母乳VSミルク」の論争がいつでも復活してくるのではないかと思います。



新生児・乳児にとって必要な議論は、「適切な授乳方法」であって、決して「母乳かミルクか」ではないはず。


各社の栄養士さんを集めてひとつの組織にして、そこで、現在の乳児用ミルクに関する標準化された知識をまとめ、また新たな情報をアップデートして産科施設や保健センター、あるいは保育施設へ提供する。


あるいは、周産期から小児各期の栄養について、さまざまな個別の栄養相談に対応するために産科施設や保健センターへ派遣する。


産科施設や保健センター、保育施設のスタッフから、個々のケース報告を集積して、授乳方法の実態や問題点を拾い上げる。


そして、母親はどのように乳児を育てているのか。
それは、「母乳が出ているか出ていないのか」の問題にすり替えられやすいのですが、新生児や乳児はどのような飲み方や成長をしているのか、まだまだ明らかでない多様な生活史の観察に重点を置きかえると、違った世界が見えてくるのではないかと思います。


また、母親だけでなく家族の中で、どのように新生児・乳児の授乳方法が選択されているのか。
時代によって変化する情報がどのように交錯しているのか。
親の生活の変化と、それに伴う授乳方法の変化はどうなのか。
授乳の具体的な問題や必要な支援は何か声をすくいあげ、全体像を明らかにしていくという調査・研究を担ってくださるとよいのではないかと思います。


「こうすれば母乳だけで育つ」あるいは反対に「ミルクの方がよい」といった価値観や信念を一旦脇に置いて、新生児や乳児の生活史を観察していけば、おのずとそこには普遍性のある「授乳方法」が見えてくるのではないかと思います。


そのために、「周産期・小児期」の栄養について専門的な知識と経験を有する栄養士さんがまとまり、調査・研究をし、そして地域の中で必要な施設に派遣されていくシステムができると良いですね。


そして、災害時にも新生児や乳児が適切に授乳を続けられるためにはどうしたらよいか
そのあたりにも栄養士さんたちの知識や技術が活かされるとよいのですけれど。


私たちはあまりにも、新生児や乳児の「授乳」や「生活史」を知らない。
そのことに気づかなければ、また「母乳VSミルク」の誤った議論を繰り返すことでしょう。
そのどちらも授乳方法を間違えば、新生児や乳児の生命を脅かすものなのですが、その事実を見失ってしまった半世紀だったのだと思います。



「汚れたミルク」という映画を見た感想からこの記事まで、以下のような記事をしばらく書きました。
今日以降の「汚れたミルク」に関する記事もここにまとめていきます。

「母乳だけ」で新生児の生命が危機に陥ることもある
ミルク・ナースとは
日本では誰がどのように乳児用ミルクの説明をしているか
乳児用ミルクの「生活史」を知る
周産期・小児期の専門栄養士なんてどうでしょうか
個人的体験談ではなく標準化された調乳・授乳の啓蒙を
原題は「Tiger」
「現実と架空の接点を言葉一つで伝える」


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