シュールな光景  10  <「横文字」の魔法>

先週の「アド街ック天国」は三ノ輪周辺でした。
その中で都電荒川線が紹介されていました。
昨年は、荒川や隅田川神田川を辿って散歩をしたので、結構、都電荒川線には乗りました。


番組の中の都電荒川線を観ているだけで、荒川線の乗客が多い車内の雰囲気や、沿線の街の空気や喧騒などが思い出されてきました。
ああ、懐かしいなあ。


都電を見ると、いろいろな記憶が一気に湧き上がってきます。
1960年代前半、まだ幼児だった頃、電車といえば丸ノ内線西武線、そしてどの路線かは忘れたのですが荒川線のような路面電車でした。
親に手を引かれながら、車をよけ電車をよけて、道路の真ん中にある「島」のような停留所まで歩いた記憶がかすかに残っています。
都電の歴史を見ると、私のその記憶の2〜3年後から数年後には、都内のほとんどの都電が廃止されているようです。


1980年代初頭、20代の頃に世田谷線に乗る機会がありました。当時は、新しい地下鉄と長いエスカレーターそしておしゃれな路線名や駅名など、モダンな鉄道の風景に変化していましたから、地面に駅があって隣の駅も見えるのんびりした世田谷線がちょっと古臭く感じたのですが、幼児の頃のことが思い出される路線でした。
そして同じ頃、サンフランシスコに旅行に行ったときに、路面電車を見ました。そうしたら、世田谷線がなんだかおしゃれに見えてきたのですから、この辺りの感覚が心の中に引っかかっていました。


<同じものなのに名前を横文字にする魔法>


さて、冒頭の番組では「都電荒川線」と呼んでいました。
聞き逃していなければ、一度も「東京さくらトラム」という新名称を使いませんでした。


Wikipedia都電荒川線の説明では、「2017年3月、都交通局は利用者増と沿線活性化のため荒川線の愛称を決めることとした。外国人観光客にもわかりやすいように『東京⚪︎⚪︎トラム』という形式として⚪︎⚪︎に入る言葉の候補8つを表示し、一般からの投票で絞り込んだ。その結果、同年4月28日に『東京さくらトラム』に決定したと発表した」とあります。


私が「都電荒川線という名称がなくなった」と初めて知って落胆したのが、この半年ぐらあとでした。
他の路線に乗っていたときに、「東京さくらトラム」を見て新しい路線ができたのかと思ったのでした。


都電荒川線に新愛称 『東京さくらトラム』は定着する?」(J-CASTニュース、2017年5月3日)を読むと、候補には「さくら」「ローズ」「フラワー」「ブルーム」「クラシック」「レトロ」「レガシー」があげられたと書かれています。
これじゃあ、「さくら」一択問題のようですよね。
きっと「トラム」を使いたかったのだろうなと推測しています。
だったら、「あらかわトラム」でもよかったかもしれませんが。



あちこち散歩をしていると、地名や駅名ひとつとっても「山」「谷」「沢」といった地形の起伏を表す言葉が入っていたり、歴史を紐解くヒントがたくさんあることを感じます。


外来語をふわりと取り入れることで、そこにある歴史や現実の生活が見えない方がかっこいいという感覚の方が、最近は反対にちょっとダサいなあと感じます。


横文字の魔法とでもいうのでしょうか。
「洗練された」と「こだわり」、一歩間違うと危険に感じた危うさを感じるのですね。
現実の生活感(リアリティ)を消して、別の世界に行ってしまうような感じ(シュール)です。




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