横文字のあれこれ 2 <コンプレックス>

コンプレックスという言葉は、ストレスやリスクよりも先に私が中学生か高校生ぐらいの頃にはもう使っていたのではないかと思います。
「劣等感を持っている」と言うよりも、「コンプレックスがあるよね」と言う方がなんとなくやんわりとした感じになるような気がしていました。


もともとのcomplexの意味にある「(お互いに関連した)いくつかの部分からなる、複合[合成、混成の]」「(配列・構成などの)複雑な、入り組んだ、(理解・処置しにくいほど)錯綜した、もつれた」といった意味よりは、inferiority complex(劣等感)の意味の方が意識に強く残っていました。
また、反対のsuperiority complex(優越感)はコンプレックスとは言わなかったし、日本語の方が馴染んでいます。
のちに、「複合商業施設(commercial complex)」といったその言葉本来の使い方を耳にするようになると、「ああ、そうだ。コンプレックスというのは複合したという意味だった」と、ちょっとハッとした記憶があるくらいです。


Wikipediaコンプレックスを読むと、「深層心理学諸学派の間でだけ通用する概念であり、心理学や精神医学の世界で広く受け入れられているわけではない」として以下のように書かれています。

コンプレックス(独:Komplex 英:complex)は、心理学・精神医学用語で、衝動・欲求・概念・記憶などの様々な心理的構成要素が無意識に複雑に絡み合って形成された概念の複合体をいう。ふだんは意識下に抑圧されているものの、現実の行動に影響力をもつ。「感情複合」、「フィーリング・トーンド・コンプレックス(Feeling Toned complex)」とも呼ばれる。


Wikipediaの記載内容自体が「加筆を求められている」「複数の問題がある」とされていて、何がどこまで正確な記述なのか私には皆目見当がつかないのですが、世間で広がっているほどは医学的な用語ではないということなのでしょうか。


いつ頃から広がったのだろうと気になったのですが、「この語を最初に持ち込んだのはヨーゼフ・ブロイアーとされる。しかし、この語を有名にしたのはユングである。」と書かれているだけです。
ブロイアーは十九世紀後半、ユングは二十世紀前半から半ばに活躍していたようですが、どちらを読んでも具体的に「コンプレックス」という言葉が社会にいつ頃からどのように広がったのかは書かれていませんでした。


日本に広がったのはいつ頃だろうと検索していたら、1971年12月に岩波新書から河合隼雄氏が「コンプレックス」を出したようです。
「劣等感」が「コンプレックス」に言い換えられ始めたのは、この辺りでしょうか。
当時、社会の雰囲気はどんなものだったのだろうと思い返してみるのですが、小学生だったのでなんとも記憶は曖昧です。
でもすんなりとこの横文字を受け入れ、感覚的に理解し、それ以降長い間使ってきました。


最近は、母の一言マウントといった表現から、たしかに「衝動・欲求・観念・記憶等の様々な心理的構成要素が無意識に複雑に絡み合って形成された観念の複合体」あたりがコンプレックスの意味に近いのかもしれないと思います。
学問的な意義はわからないのですが、一世紀前にこれだけ人間を観察し行動を分類していたこともすごいなと思わせる横文字です。


それが、なんで「劣等感」という単純な意味で広がったのでしょうね。




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