新生児が哺乳瓶で「飲む」行動に伴うリスクとは何か 2 <哺乳瓶でも複雑な飲み方をしている>

哺乳瓶での授乳は、直接おっぱいから吸う時に比べて、「簡単に」「一気に」「あればあるだけ」飲んで満足している赤ちゃんのイメージを持つ方が多いのではないかと思います。


新生児に接する機会のあるはずの助産師の中にも「哺乳瓶で育てると自己中心的になる」などという人がいるくらいなので、よほど新生児の哺乳瓶での飲み方には確信バイアスともいえる固定観念があるのでしょう。


私が看護学生だった30年前は、まだ母子別室・規則授乳の時代でした。助産師になった二十数年前には母子同室・自律授乳が広がり始めた初期だったので、部分的には規則授乳が残っていました。あるいは今もそういう施設もあることでしょう。


夜間、新生児を預かると3時間毎に規定量のミルクを飲ませていました。
(生後日数+1)×10、つまり生後1日目の赤ちゃんは20ml、2日目は30mlというようにミルクを準備して、眠っている児も起こし、いっせいにおむつ交換をしてから飲ませていました。
10数人の新生児の授乳ですから、手早く飲ませられることが「業務」能力として求めらました。
傾けるだけでもミルクが出てくる「飲みやすい」人工乳首を使い、一気に飲ませます。舌で乳首を巻き込んだ状態でなかなか飲まない児には、哺乳瓶を少し押しつけぎみにしたり引き出したりを繰り返しながらまさに吸啜反射を利用して「早く」「たくさん」飲ませられるスタッフがベテランという感じでした。
もちろん、全員を抱っこして飲ませるなんてことは不可能ですから、寝かせたまま哺乳瓶をタオルなどで固定して「一人のみ」をさせます。



がーっと飲ませて手早くゲップをさせて哺乳瓶を片付けて・・・それでも新生児10数人を飲ませるだけで1時間はすぐに過ぎてしまいます。



なかなか飲まない赤ちゃん、口の横からだらだらと出してしまう赤ちゃんは「飲み方が下手」、すぐにゲボッと吐く赤ちゃんは「吐きやすい赤ちゃん」だと言われます。
また大忙しの授乳時間が終わって新生児が寝るかと思うと、30分から1時間ぐらいで泣き出したり、ゲボッと吐いたり、でもすでに規定量を授乳してしまったので次の時間までは、抱っこか泣かせるしか方法がありませんでした。


当時は私自身も経験が少ないので自分で何かに気づく余裕もなかったし、病棟で決まっている業務を確実にこなすことが優先でした。


時代は少しずつ「自律授乳」、「赤ちゃんが欲しいときに欲しいだけ」という考え方が主流になってきたことと、病棟で決められていること以外の方法を多少自分の判断でできる経験年数になってきた頃から、ミルクの授乳も基本的に「赤ちゃんが欲しい時に欲しいだけ」という方法にしてみました。
またちょうど勤務していた病院が2交替制だったので、16時間という夜勤中にひとりひとりの赤ちゃんのペースを自分で見続けることができたのも良い経験になりました。


新生児が起きるまでミルクの授乳も待ってみる、一回の規定量にこだわらずにその新生児がその時に飲む量を尊重する、飲まないときには無理に飲ませないで待ってみる、ということを試してみました。
また当時、ちょうどドイツ製のヌークの人工乳首が病院でも使われ始めて、それまでのように傾けただけで重力でミルクが流れ出ることもなくなり、また適度な弾力性のある素材になったので新生児が舌で巻き込んだときに先端部分がつぶれて飲みにくいということもなくなりました。
そののち哺乳瓶メーカーがさまざまな工夫の商品を販売し、いろいろと試してみましたが、人工乳首の素材が適度な硬さを有していれば大差はないかと私個人は考えています。


そういう方法で新生児の哺乳瓶・人工乳首での授乳をじっくり観察するようになって、かれこれ20年近くになりました。
今のところ、「新生児の哺乳瓶・人工乳首での授乳は、ほぼ母乳の直接授乳と同じではないか」という考えです。
1ヶ月ぐらいの赤ちゃんになると、多少の違いは出てくると考えています。


ポイントは、
1.適度な硬さと穴の大きさの人工乳首を使用する
2.哺乳瓶で授乳する際に、赤ちゃんの口に押さえつけない
という点です。
新生児は決して「哺乳瓶で楽に一気に飲んでいる」わけではなく、時に舌で押し出そうとしたりあえて飲まないような口の動かし方をしたり、けっこう複雑な行動をしています。
そういう行動を観察するためには、授乳の際に哺乳瓶を押し当てるとわかりにくくなってしまいます。また哺乳瓶自体の重さも新生児の哺乳瓶を押し出そうとする行動をわかりにくくさせるので、軽く哺乳瓶を保持する程度で支えて授乳してみると良いと思います。


「口でくわえる」で書いたように、おそらく新生児はあの白っぽい人工乳首は見えないのでしょう。
哺乳瓶で飲ませるためには、唇をつついたり刺激をして口を開けたときに舌の上に素早く乳首をのせることがコツです。
簡単そうで、なかなか口を開かないことがよくあります。口に入れたと思ってもすぐに押し出されて、なかなか飲んでくれないことがあります。
特に生後2日ごろまでの赤ちゃんに、哺乳瓶をくわえさせるのに時間がかかることがあります。
ですから口に入れたら最後、飲ませる側は何としてでもこのまま飲んで欲しいとかなり力を入れて押し付けてしまうところですが、ここも新生児にまかせてみます。


出生当日から生後2日ぐらいの新生児だと、この吸い始めのところで何度も何度も押し出されたり、無理にそのままいれていると「おえっ」と嘔吐反射がでることがあります。
しばらくすると何とか飲み始めるのですが、少し吸ったところでまた押し出そうとし始めます。いったん哺乳瓶をはずして様子を見ていると、ゲフっとしてもぞもぞして、しばらくすると口がパクパクしてまた欲しがる様子を見せるのです。そういう時には、乳首が口の近くに来ただけで自らくいつくこともあり、そしてぐびぐびとけっこうたくさん飲みます。
あるとことろまで勢い良く飲むと、また少し乳首を押し出してくちゅくちゅと浅い吸い方をしばらくしています。もういらないかと思ってはずそうとすると、あわてて深く舌で巻き込んで離さないように防御しているかのようです。
しばらくすると、ペッと乳首を吐き出すかのように離します。


生後2日ぐらいまでの新生児にこのような方法で授乳を試すと、以前のように1回20mlとか30mlを一度に飲むことはなく、だいたい5mlぐらいで一休みです。
30分から1時間ぐらいでまた起きて、同じような吸い方をして・・・を繰り返します。


そして夜中の2時頃になると、朝方まで急に深い眠りになります。
そのあたりは、doramaoさんのとらねこ日誌「母子の健康と母乳育児ー母乳育児を考える5」の<10.赤ちゃんの眠りと行動>*で書かせていただいたのですが、哺乳瓶での授乳パターンも母乳の自律授乳でもほとんど変らないといってよいでしょう。



哺乳瓶で飲ませると簡単に飲んで赤ちゃんは良く寝てくれて楽・・・少なくとも早期新生児期にはそんなことはないですね。
夜中ぐらいまで新生児は活発で、飲ませても1時間ぐらいで大泣き、こちらも疲れてきた頃に急に深い眠りに入ります。
やれやれと3時4時台に、まだ終わっていないほかの業務をあわてて終わらせるという感じでした。
きっと母乳だけのお母さんたちにも、この感覚は共感を持ってもらえると思います。いかがでしょうか?


生後2〜3日を超えると一気に飲む量も増えてきますが、それでもくちゅくちゅしているだけでなかなかミルクが減らないと思っていると、一気にあっという間にのんでしまったり・・・ということを、哺乳瓶での授乳をしたことがある方は必ずといってよいほど体験していると思います。
傾けるだけで出るような哺乳瓶だと、赤ちゃんは口の横からミルクを出して、「あえて飲まないように」しているのではないかと思います。
全然ミルクが減らないのは人工乳首の種類のせいではないかといろいろ試しても、変らないこともあります。でも同じ人工乳首でも飲むときには一気にのんでしまう。


それは何を意味しているかといえば、赤ちゃんは決して飲み方が下手なわけでも乳首が合わないわけでもなく、「飲まないように何かを待っているのではないか」ということではないでしょうか。
哺乳瓶での授乳も、母乳の直接授乳と同じで赤ちゃんなりに哺乳行動に自律性があるということだと思います。


生後2〜3日までの新生児に哺乳瓶で授乳する際の注意点やリスクは何かと考えたときに、出生直後で吸啜運動と呼吸を同時に行うことに関しての未熟性でしょうか。
哺乳瓶で一気に飲ませていた頃は、授乳の途中で顔色が真っ青あるいは真っ黒になりかける赤ちゃんをよく体験しました。
新生児にはよくあることぐらいの認識でしたが、母乳の直接授乳の場合にはよほど心疾患や呼吸障害がない限りチアノーゼを起こす新生児は見かけません。
また哺乳瓶でのミルク授乳も、上記のように新生児のペースに合わせることでチアノーゼが出現することはほとんどなくなりました。
休みながら、待ちながら飲む、新生児のありのままの哺乳行動を大事にすれば、哺乳瓶での授乳もこのリスクを予防できると考えています。



*「どらねこ日誌」からはてなの「とらねこ日誌に引っ越したのでリンク先を変えました。




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