新生児の哺乳行動とは  7 <胃結腸反射> * 2013年6月30日訂正あり

子宮の外で生きるために自力で消化・吸収・排泄していくために、胎内にいるうちから胎便が準備され、そして出生後の新生児の体内では腸内細菌叢が形成されたり、まさに劇的といってよい変化が起きていることを書いてきました。


出生直後の新生児はすでに30mlぐらいの胃の容量があるそうですが、なぜ出生直後からたくさん飲んで体重を増やしていかないのか、なぜ母親側も出産直後からすぐに新生児の胃の容量に見合った母乳を分泌せずに、だいたい2〜3日後から分泌が急増しはじめるのでしょうか。


それは新生児は出生後、飲むことよりも先にこうした消化・吸収・排泄の準備段階が必要であるということではないでしょうか。


その中でも特に「胃結腸反射」が、新生児の行動を理解するキーポイントになるのではないかと考えています。


胃結腸反射とは、食べ物などが胃の中にはいるとその刺激で大腸や結腸が反射的に大きく蠕動して便を直腸に送り出そうとする働きです。
doramaoさんどらねこ日誌に、以前書いた部分を再掲します。(*現在のとらねこ日誌のリンク先に変更しました)
「母乳育児を考えるーふぃっしゅさんのコメントよりーその3」<5.胎便から移行便、腸内細菌叢について>

腸を動かすためには「胃結腸反射」という機序があります。胃の中に何かが入ると、腸蠕動を起こします。大人も朝目が覚めると、何か飲んだり食べたりすると便意がでてきますよね。赤ちゃんもそれを待っているのが、このくちゅくちゅなのだと思います。この浅い吸い方を何度か繰り返して、あるところまで腸が動くとうんちが出たりおならが出て、そのあと赤ちゃんは急に深く乳輪まで吸いついて「グビグビ」と母乳を湧き上がらせるのみ方が出ます。ここに至るまで1時間も2時間もかけることがあります。


生後2〜3日ぐらいまでの新生児は特に、目が覚めると激しく泣いておっぱいを吸わなかったり、浅くくちゅくちゅしては泣いて・・・を繰り返したりします。
よく見ていると、目が覚めただけでも何も飲まなくても大きな腸蠕動があるようです。
激しく泣いていてもだいたい2〜3分ぐらいするとピタッと泣き止んで、そのあとゲフッと大きなげっぷをします。そしてそのあと、うんうんといきんでから少し吸い始めます。


生後2〜3日ぐらいになると、だいぶこの大きな腸蠕動に慣れるのか、目が覚めても激しく泣かずにすぐに吸いつき始めます。
それでも、すぐ母乳を湧き上がらせる飲み方ではなく浅めにくちゅくちゅしています。しばらくするとおっぱいに吸いついたまま、「げふっ」にちかいお腹の動きがあります。くわえたままなので、げぷっという音は出ませんが。


新生児は、こうして「飲みながら腸を大きく動かす」ことに徐々に慣れていく段階があるのではないかと考えています。
この腸蠕動に合わせてくちゅくちゅと浅い吸い方で待ってみたり、急に大きな口の動かし方で母乳を湧き上がらせるような飲み方をしたり、新生児の哺乳行動は腸蠕動に合わせた行動をしているといえると思います。


そしてその腸蠕動に合わせた哺乳行動も、出生当日は「吸いながら待つ」ことができなくて泣いていただけの新生児が、日ごとに「飲みながら腸蠕動を待ち」、そして「飲みながら、乳首をくわえながらうんちまでする」ことができるようになります。


またそれは母乳の場合だけでなく、哺乳瓶での授乳でも同じことをしています。


この新生児の胃結腸反射についての文献をずっと探し続けていたのですが、唯一見つけたのは「周産期医学」(東京医学社)の「周産期ケア エビデンスを求めて」 2004 Vo.34増刊号の下記の部分でした。
「新生児の便の正常な色、回数、硬さ、臭いは?」(p.789)

新生児には胃結腸反射があるので、哺乳のたびに排便する。しかし、生後1ヵ月頃になると次第にその反射が弱くなって排便の間隔が伸びてくるのが普通である。


新生児の胃結腸反射をもっと研究すると、日頃のお母さんたちからの質問への答えが大きく変る可能性があると考えています。


たとえば、「授乳のあとげっぷをさせる必要はありますか?」という質問に、どう答えているでしょうか?
従来のように「げっぷがでるまでは背中を軽くたたいて」と教えている人もいれば、「母乳の場合にはいらない」と言う人もいます。
その根拠は?げっぷとは何か?胃の中の空気を出すため?・・・と考えたときに、よくわかっていないまま答えていることが多いのではないでしょうか。


げっぷは新生児の体の中で胃結腸反射が起きたことによって聞こえる音と考えれば、母乳の直接授乳の場合にはなぜげっぷをさせなくてよいかという答えになります。吸いながら、げっぷになる大きな腸蠕動を同時に行っているからということだと思います。


つまりは、何もしなくても大丈夫ということです。
窒息の心配が大きいのだと思いますが、母乳の場合にはげっぷになるような大きな腸蠕動が終わってから赤ちゃんはおっぱいをちゃんと離します。
哺乳瓶の授乳の場合には、そのくちゅくちゅ待つ吸いかたをする前に哺乳瓶の中身がなくなると離されてしまうので、大きな腸蠕動が起きるまで普通に抱っこして待っていればちゃんとげふっとします。
また、授乳後ようやく眠ったと思っても30分から1時間ぐらいで泣き出すことがあります。抱っこするとげっぷが出て、眠ってしまうことがよくあります。このあたりでも何か消化吸収の過程で腸が活発に動くのかもしれません。
赤ちゃんは眠っていても、大きな腸蠕動が起こりそうになるとぐずぐずと呼びかけたり何かサインを必ず出しています。


「くしゃみ」や「鼻づまり」もおかあさんたちからよくある質問ですが、これもよく見ていると胃結腸反射に関係しているのではないかと推測しています。
だいたい、げふっとした後にくしゃみや鼻づまりが出始めています。
新生児の場合、胃結腸反射の大きな腸の動きによって胃の中の乳汁は容易に口のあたりまで逆流してきます。
その刺激でくしゃみが出たり、鼻や咽頭付近の粘膜を刺激して一時的に鼻が詰まったような音になったりしているのではないかと思います。


「飲みながら寝ている」「飲んだのに眠らない」「ぐずぐずしている」「吸いつき方が浅い」なども、腸蠕動が活発な時の哺乳行動であるととらえれば、けっして異常なことでもないし、ましてや「育てにくい」「飲み方が下手」などということではないと受け止められるのではないかと思います。


前述のどらねこ日誌に、以下のように書きました。

ですから助産師はあまり手を出さずに待ってあげる方が良いのではないかと、最近思うのです。決して赤ちゃんはおっぱいをうまく吸えていないのではなく、何かをちゃんと待ちながら調節しているのだと思います。