新生児のあれこれ 36 <新生児の通訳になる>

前回の記事に書きましたが、助産師になって働き始めるとそれなりに新生児の世話はできるようになりました。


でもしばらくは、こちらの記事に書いたような状態でした。

まだその頃の私は、「泣けばおっぱい」「泣けば授乳」「泣けばおなかがすいた」と新生児の表現をお母さんたちに通訳するしかできませんでした。
新生児の泣き声を聞き分けることはまったくできず、まして生後日数によって新生児の泣き方も吸い付き方もどんどん変化しているなんて目に入りませんでした。


最近では、それぞれの新生児の違いや「この赤ちゃんは、今、こういうことを伝えようとしているのだろう」とおおよそ見当がつくようになりました。


ベビー室に預かっている新生児だけでなく、同室中の赤ちゃんが起き出した気配もほかのところにいながらも感じて、何をしたらよいかが見えてきました。


それはこちらでリンク先をまとめたように新生児の哺乳行動が授乳、消化・吸収・排泄の統合的なものであって、ねむりやぐずりなどもその哺乳行動に関連して変化しているのではないかということが漠然と見え始めたからです。


<通訳のしかたを間違うと・・・>


新生児が泣き始めたりごぞごぞ動き始めると、まずほとんどの看護スタッフはオムツを見ます。


おそらくどの看護学校でも、「赤ちゃんが起きたらまずはオムツ交換をする」と教えているのだと思います。
私も実際にそう習い何の疑問も持たずに長い間そうしてきましたし、お母さんたちに教えてきました。


生まれた直後から生後2〜3日までの新生児であれば、オムツ交換をしようとすると激しく泣いたり、時には途中で吐いたりします。
それでも退院の頃になるとオムツを替える時にも激しい泣き方も少なくなるので、「赤ちゃんも慣れた」のだろうと思っていました。


今は違います。
赤ちゃんがモゾモゾし始めたり、泣き始めるとまずは抱っこするようにしています。
たいしたことがないようなこんな小さなことでも、案外、今までの「慣例的」なものの見方を変えてみることは難しいのではないかと、他のスタッフの行動を見て思います。
子育て経験があるスタッフも、まずはオムツ交換から教えている人が多いのではないでしょうか?


生後2〜3日ぐらいまでの赤ちゃんであればここで激しく泣いたり、泣いてもおっぱいを吸わないこともほとんどですが、2〜3分も待つとピタッと泣き止んでおおきなゲップが出ていきんだりホッとした様子があるのは胎便移行便から母乳便へ変化するあたりの記事で書いたとおりです。


目が覚めると、まずは大きな腸蠕動があるようです。
それがゲップとして聞こえます。
このタイミングでオムツ交換をしようとしたりおっぱいを吸わせようとすると激しく泣くのであれば、「危険だからやめてくれ!」と言っているのだろうと解釈しています。


何が危険かといえば、大きな腸蠕動とともにゲボッと胃の中のものが溢(あふ)れてきそうになることを伝えようとしているのだと思います。
「吐く」ではなく「溢れてくる」。
だからちゃんと赤ちゃんには「溢乳(いつにゅう)」という言葉があるわけです。



生まれたばかりの新生児でも、この危険を啼き声で伝えるレベルには個人差があるようです。
出生当日でも激しい啼き方はせずに、目で訴えるだけの新生児もいます。


そういう新生児がふと目を開けたりもぞもぞしだしたタイミングで抱っこすると、しばらくすると必ずゲフッとして口の中まで胃の中のものが溢れてきそうになります。
泣いても抱っこしなかったり、泣かないからと寝かせたままにしておくと「吐く」ことになり、「吐きやすい」要注意の赤ちゃんにされてしまいます。


出生直後の「初期嘔吐」と呼ばれるものも、以前は新生児には見られる生理的な状態だと私も思っていましたが、「溢れる」前に赤ちゃんたちはちゃんとサインを出しているので抱っこしてあげればほとんどの場合吐くことはないようです。


「赤ちゃんが起きたらまずオムツ」
こう信じ込んでいる看護スタッフが、一番、新生児には表現が理解してもらえない手ごわい相手なのかもしれません。



なかなか新生児の通訳になるのは難しいものです。





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