舌小帯切除は不要  <日本母子ケアー研究会の研修より> *2015年5月4日改題

赤ちゃんは飲みながら腸の動きを待ったり、排泄をしています。
哺乳行動とは授乳、消化・吸収・排泄の統合的な行動である、とも言い換えられるのではないかと思います。


そのようにとらえれば、新生児期からよくみる「おっぱいになかなか吸いつかない」「吸っても浅い」「ずっと吸いつづけている」なども、決して新生児の吸い方に問題のある「哺乳障害」で何か矯正したり訓練したりする必要はないと言えるでしょう。


また「眠りが浅い」「ぐずぐずし続ける」「抱っこしていないと泣く」なども、腸蠕動が活発な時間であると考えれば、お母さんの不安も少なくなり赤ちゃんが落ち着くまであやして待ってみようと思えることでしょう。


ところが、そういう赤ちゃんの表現を「問題」ととらえたり「育てにくい赤ちゃん」として何か手を出さなければいけない、アドバイスをしなければいけないとさまざまなとんでもない考え方や方法が広がってしまいます。
お母さんたちも不安からそういう考えを受け入れてしまいやすくなります。


日本母子ケアー研究会という団体が今年6月に開催予定の報告会の内容です。
第13回学術・実践報告会
「母乳育児がつらくなるとき」 〜育てにくさの要因を探る〜


耳鼻科医による「『今、子どもたちの呼吸が危ない』〜哺乳障害、いびき、睡眠時無呼吸症、舌癒着症を通して〜」という教育講演があるようです。
その概要を引用します。

人間は哺乳類である。乳児が母乳を飲むのは当然のはずだ。
しかしながら日常診療をしていると母乳育児に苦悩を感じている母親達が少なくない。
なぜ我が子が飲めないのか、なぜおっぱいトラブルがたえないのか、明確な答えが得られないまま母乳育児を断念している原因のひとつに子供達の舌癒着症がある。
これにより呼吸が苦しく感じると子供たちは哺乳を放棄する。呼いびき吸に問題が生じると睡眠時無呼吸症候群やイビキをきたす。するとやがて舌癒着症の子は、学習障害家庭内暴力不登校などをきたす。
児が母乳を飲めない、育てにくい、寝てくれない、カンが強い、扁桃やアデノイドが腫れやすく風邪をひきやすい等々、舌癒着症に基づく症状は多岐に及ぶ。
最悪のケースは突然死である。
一刻も早く子供達の呼吸が危ないことに気づくべきである。


この研究会は、「自然育児法」という多数の書籍を出した山西みな子氏(助産師)の流れをくんでいるようです。講師の耳鼻科医は、山西みな子氏の息子さんのようです。


舌小帯切除については小児科学会から2001年の時点ですでに「学問的根拠はない」とされていました。
日本小児科学会雑誌 第105巻第4号/平成13年4月1日(2001年)
日本小児科学会倫理委員会  舌小帯短縮症手術調査委員会
「舌小帯短縮症に対する手術的治療に関する現状調査とその結果」
(http://www.jpeds.or.jp/journal/105-04.html#09  2016年5月29日現在ではリンク切れでした)

助産婦(注)などから子育て中の母親に「舌小帯を切らないと突然死になる」というコメントが述べられるにおよんで、専門家の意見の不一致が子どもを持つ親の育児不安を引き起こしていることが明らかとなった。

(注:この年はまだ助産師ではなく助産婦)

<考察>
今回の調査でも、かつて舌小帯に小切開を行っていた小児科医のほとんどがすでにそのような処置を行っていないことが示されている。
母乳栄養に役立つとの思いから乳児の舌小帯を切ることは、そのような類いの(注)学問的根拠のない習慣であったことがようやく広く理解されるようになり、一見落着の感がある。

(注:初乳を「荒乳(あらぢち)」として捨てていたり、乳児をこけしのようにぐるぐるに巻いていた習慣)

<結語>
受け身である乳幼児を不当な麻酔や手術という侵襲から守るための措置を考えるとともに、子育て中の母親に適切な情報を提供してその無用な不安を軽減する努力をすべきである。


すでに10年以上前には小児科医や耳鼻科医の間では医学的にも効果を否定された舌小帯切除が、なぜいまだに根強く助産師の中に残り研究会まで開かれているのでしょうか。


新生児や乳児の哺乳をもっともよく観察する機会があるはずの助産師ですが、ありのままを観察する態度が足りないのではないかと思います。
新生児の出生直後からの胎外生活の適応のための変化は、劇的で複雑な過程があります。
それに伴う新生児の変化について、十分に観察も研究もされていないと言ってよいでしょう。


まだわからないことがたくさんあるはずなのに、新生児のある行動を「問題」ととらえ授乳に原因を結びつけて解決策であるかのように検証も十分にされていない考え方や方法が、すぐに良い方法としてセミナーや書籍で広がりやすい風潮があります。
それはかえって不要な不安をお母さんに与えていることであることに気づくことが大事だと思います。


また、医学的にほぼ結論が出ていることでも助産師の間に浸透しないことにも問題があると思います。
なぜ浸透しないのか。少しずつ考えていきたいと思います。


*最初のタイトル名は「舌小帯切除は不要 1 <日本母子ケア研究会>」でしたが、「2」の続編がないままなのと、日本母子ケア研究会の研修内容についての内容であるので改題しました。