助産師と自然療法そして「お手当て」48 <「正しい寝かせ方で姿勢のきれいな赤ちゃんに」>

前回の記事で2000年に米国小児科学科が出した赤ちゃんの寝かせ方についての勧告を紹介しましたが、その中の「硬めのマット」に「シーツ以外は置かない」というのは、日本でも自明と受け止められていたことが改めて文章になった程度のことだと思います。


ところが同じ頃に、日本の助産師の一部でそれとは真逆の考え方をお母さんたちに広げる人たちが出てきました。
「赤ちゃんは子宮の中と同じように丸まった姿勢がよい」といったものでした。


それが、さとえさんが新生児訪問で出会った助産師の考え方です。

来られた助産師さんは、私の授乳クッションとタオルなどでベッドのような物を作り、真ん中の窪み部分に寝かせるようにと言いました。

その他にもまだ首もすわらない娘の体をいろいろ動かし、この形にさせないとあとから大変な思いをする、赤ちゃんは泣かない方がいい、発育に問題がでるなどと言われました。

入院中のお母さんが「怖い事が書いてある」とゴミ箱に捨てたパンフレットにも、「赤ちゃんの体をまあるくするのがポイントね」と天使の寝床とかネオモックといった商品を勧めています。


<「こんな赤ちゃんに」「こんなこどもをめざして」>


上記リンク先では「こんな赤ちゃんに」として、「身体がかたい」「同じ方向ばかり向く」「頭がゆがんでいる」「反り返って泣く」「指先の血色がわるい」など書かれています。


あーーーどこかで聞いたフレーズですが、桶谷式母乳相談で「母乳で育てればこういう事がなくなる」というのは30年近く前から聞きましたし、舌小帯切除でも同じような事を言いますね。


「こんな子どもをめざして」では「すやすや眠る、機嫌のいい赤ちゃん」「手先が器用になって脳にもいい刺激がいっぱい」「かけっこやでんぐり返り、ボール投げも上手に」など、親の願いが書かれているかのようです。


「同じ方向ばかり向く」や「頭がゆがんでいる」についてはこちらの記事で、また眠らないとか「反り返って泣く」については赤ちゃんの眠りと行動」あたりで消化吸収排泄のタイミングとの関係がある可能性を書きました。


いえ、まあ「こんな子になって欲しい」といろいろと試してみて、親の気持ちが少しでも安定するなら悪くはないのかもしれません。


<「正しい寝かせ方」という思い込み>


パンフレットには「しっかり歩けるまでの正しい寝かせ方とは赤ちゃんの背骨をC型に保つ寝かせ方なのです」「歩き始める頃に腰椎に前湾ができてS字状のカーブもできて完成します」とあり、そのための天使の寝床、マイピロー、おひなまき、ベビハグスリングなどの商品が販売されているようです。


一通りの商品を購入すると、およそ6万円になります。


親の願いをかなえるのであれば、安いと感じるのでしょうか。


<C型ではできない成長>


新生児から2〜3ヶ月頃までの赤ちゃんというのは、「これは正常なのだろうか」「なんのためにそんなことをするのか」と親を心配させるような独特の動きや表情が多い時期ですね。


たとえば生後数日もしないうちに、かけているバスタオルを蹴飛ばすようなしぐさが多くなります。かけ直してもまた蹴飛ばされ、「暑いのだろうか」と受け止めるお母さんが多いようです。
よく見ていると、たとえば右に顔を向けている赤ちゃんであれば左足がより活発に動いている印象です。足をバタンバタンさせているうちに、早いと1ヶ月頃には右側へ向けて半分位寝返りをうちそうな勢いです。


そしてある日、自力でバタンとうつぶせになります。


あのバスタオルを蹴っていたのも、この日のための自主トレだったのかもしれません。


この動きひとつをとっても、やや硬めの平らな布団に寝ているからこそできるのだろうと思います。


<新生児は子宮と同じ環境が良いのか>


これについては新生児の気持ちを確認する手段はないのですが、ひとつ推測する手がかりになるのがこちらの記事で紹介した、首がすわるメカニズムです。
再掲します。

屈筋と伸筋の優位性の変化

満期が近づくにつれ胎児は急速に大きくなるが、狭い子宮内でも苦痛なく過ごせるように屈筋優位な状態で成長し、出生にいたる。そのため満期で出生した児では、上下肢ともに屈曲位が基本姿勢となる。3〜4ヶ月頃になってくると定頚できるようになるが、頚がすわるためには頭を支えるための伸筋が強くならなければならない。
「周産期相談318 お母さんへの回答マニュアル」(東京医学社、2009年)

伸筋を強くするためには、子宮内の丸まった姿勢ではない方がよいのではないでしょうか。


いずれにしても小児科医療の現在の考え方とは全く違う考え方を助産師が広げてしまう事を止めるシステムが必要だと思います。
特に新生児訪問でお母さんたちに「変なこと」を教えてしまわないように。





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