助産師教育ニュースレター 3 <世界に追いつけ>

おとといの記事を書きながら、助産師の教育者のニュースレターの中で「医師のいない場での出産介助」を想定した教育内容が進められているのはICM(国際助産師連盟)の動きに合わせて「世界に追いつけ」と考えている人たちがいるのかと、おぼろげながら見えてきました。


<日本の助産師もICMの定義によれば助産師の名称を使えないことになる?>


ニュースレターNo.71(2011.8.26)に寄稿されている大石時子氏(天使大学助産研究科 教授)の第29回ICM評議会、大会の報告から書き出してみます。
http://www.zenjomid.org/activities/img/news_71.pdf

1.ICMの骨格となる3本の文書を採択

1.基本的助産業務に必要な能力の改訂
(中略)
たとえば、会陰裂傷1・2度の縫合は前から基本項目であったが、今回、局所麻酔が基本のほうに追加された。

2.助産教育の国際基準
必須能力を獲得するための助産教育期間は1年半以上(ダイレクトエントリーは3年以上)とし、助産教育課程のことを決定するのは助産師であるべきことや、助産師教員の臨床経験年数、教育における実習と講義の割合などについて規定している。

助産師過程の大学院化の動きも、こういう背景があるのでしょうか?
そしてその教育も助産師の手だけで実施したいということでしょうか。

3.助産に関する規則の国際基準
この文書は助産師に関する規則の集大成で、教育過程の認証から実践範囲、免許制度、規則と違反に対する対応についてまで言及した上で、それらを誰が決定するべきかも規定している。
これらの3つの文書は、職能団体の組織・強化を図るICMの戦略と相まって、助産を強化していく上で、母子と家族に安全なケアを提供し、社会から信用され得る助産師の水準とは何かを、自らに対してのみでなく、世界に向けて明らかにしようとしたものである。

助産の強化」という意味がわからないですが。


2.助産師の定義の改訂ー世界中で助産師と呼ばれる者を統一しよう!

「その国において正規に認可され、ICMの基本的助産業務に必要な能力とICMの助産教育の国際基準の枠組みに基づいた助産教育課程を修了し、また/あるいは助産業務を行うために法律に基づく免許を得て助産師という名称を使うものである。そして助産を実践できる能力があることを示せる者である。」

この定義は助産師」という名称を独占するものは定義に見合った教育を受け、この定義にある実践能力を持っていなければ日本の助産師もICMの定義としては助産師の名称を使えないことになる。
日本を初め世界各国で助産師の教育実践範囲が異なる現状の中で、ICMはこれら3つの文書の規定を満たすものが「助産師」であると世界中で統一されていくことを、はっきりと目標としたのである。


3.世界各国での実現が今後の課題

3年後のプラハ大会まで、これら3つの文書の内容を世界各国でどの程度実現していけるかが、今後のICMの主な活動目標である。
日本にとっても、これらの文書の内容は現状から考えると実現していくのに困難な目標が多くあると思われる。
また、それらの目標そのものが、日本にとってもふさわしいものなのか否かの論議にもなるだろう。日本では保助看法改正により助産教育が一年以上へと変化したばかりであるが、国際基準では一年以上となったのである。

<ICM(国際助産師連盟)はどのような権限をもつ組織なのか>


上記の大石時子氏の報告を読み、なぜ国内で法的に定められた助産師の業務では「ICMの定義としては助産師の名称を使えなくなる」ことに危機感を持つのか、最初は理解できませんでした。
今までの私の印象からは、「ICM大会に進んで参加する人は、『自然なお産』や『助産師だけの分娩介助』に強い関心を持つ助産師」ぐらいの認識でしたが、改めてICMについて調べて非常にうかつであったことに気づきました。


「ICMとは」日本看護協会のホームページより
http://www.nurse.or.jp/nursing/international/icm/about/index.html

目的
世界中の母親、乳児、家族へのケアを向上させることが大きな目標です。このために助産師の教育を高め、技術と科学的な知識の普及をはかり、各会員協会から自国政府への働きかけを支援し、また、専門職として助産師の役割の発展を推進しています。

この目的には特に問題はないと思います。特に「科学的な知識の普及」助産師が科学的な思考に基づく根拠のある実践や周産期医療全体を考えることのできる視野の広さに欠かせないことだと思います。


うかつだったというのは、「各会員協会」という点です。
日本では、日本看護協会日本助産師会、日本助産学会の3団体です。
私は助産師会には入るつもりはありませんが、日本看護協会会員です。
もう一度、日本看護協会の定款細則を読み直してみると、第3章に「国際看護団体加入」がありました。

(国際看護団体への加入)
第6条 本会は国際看護師協会および国際助産師連盟に加入し、その正会員としての資格を保持する。
(国際看護団体への出席)
第7条 会長は国際看護師協会の会員協会代表者会議及び国際助産師連盟の国際評議会に出席する。ただし、会員が出席できないときは、会長は理事会の承認を経て正会員のなかから代理者を任命することができる。

第29回のICM大会には約50名ほどの日本からの参加者があったとあります。自由意志での参加者もいるでしょうが、中には看護協会の代表として参加している助産師もいるわけです。
ICM大会に代表として参加する方たちは、いつ臨床で働く私たち助産師に「現場の問題は何か」「助産師の会陰縫合、麻酔の使用の業務拡大は必要か」「医師のいない助産師だけの分娩介助は母子のためによりよいものか」と尋ねてくれたでしょうか?
質問してくださったら答えます。
「産科医や小児科医をふやしてください」「産科病棟の看護師・助産師をふやしてください」、それが最優先ですと。


通常の国内の看護協会の代議員も看護協会員の多い大病院からの選出のようですし、一会員の意見はどこまで反映されるのかはわかりません。
けれども看護協会に入会することは自動的にICMを支持する関係になるということですから、現場からみておかしいことはおかしいときちんと考え続けていかなければいけないと改めて思いました。


世界中の周産期医療や母子保健の視点での意見交換、情報交換の場は大事です。
けれど「理想」が各国の現状よりも優先されてはいけないと思います。


助産師教育ニュースレターの中で語られる「世界に追いつけ」のための世界とはどのようにとらえられているのかを、次回は考えてみたいと思います。



助産師教育ニュースレター」まとめはこちら