看護師基礎教育の大学化 25 <大学化の矛盾・・・助産師>

産科診療所に勤務していると、総合病院時代のように20代の若い助産師に接する機会が少なくなってしまいました。


先日、久しぶりに20代の助産師さんと話をする機会がありました。
大学化の流れの中にあって、ここ数年で新設された助産師専門学校を卒業されたとのことです。


どんな教育を受けたのか質問攻めにしました(笑)。


拍子抜けするほど、「自然なお産」とか「正常分娩は助産師で」とかには関心が無い様子でしたし、学校でも基本的なことをきちんと教えられてきた様子にちょっと安心しました。


でも、90年代頃の「分娩台はいらない」「医療介入をしないお産」を求めていた時代の雰囲気をほとんど知らないことにも一抹の不安がありました。
やはり10年前、20年前という直近の歴史というものは伝わりにくいのだと思います。


でもまぁ、「助産師教育ニュースレター」のような勇ましいことを考える教育者は少なくて、ほとんどの教員が粛々と学生を育ててくださっているのだろうと思いたいものです。


さて、今回は、大学教育の中で助産師を育てることの問題について考えてみようと思います。


<無資格での分娩実習>


一番大きな問題は、「看護師の資格を持たずに分娩実習を行うこと」の是非だと思います。



「分娩実習」とは何かについて、厚労省「資料 助産師教育について」(2006年)の「助産学実習における分娩介助の考え方について」(p.7)の中に、以下のように書かれています。

(問一の4)助産学実習における分娩取扱件数一件の定義は何か


「学生一人につき正常産を十回程度直接取り扱うこと」としており、1件の分娩を二人の学生が介助した場合や後産(胎盤娩出)の介助のみを行った場合を含むものではないと考えており(以下略)

つまり、見学ではダメで、あくまでも直接介助することを「分娩実習」としています。


助産師になるには助産婦学校入学が唯一の方法であった1980年代までは、看護婦の国家試験を受けてから助産婦学校に入学していました。


ただし当時は3月に国家試験、そして5月に合格発表だったので、助産師学校に晴れて入学したあとに看護師の国家試験に不合格だった方もいました。



助産婦学校の入学要件は「看護婦養成課程を卒業するか見込みの方」なので、「看護師資格」は明記されていませんでしたが、分娩実習という母子二人への医療行為が多い状況を考えると、看護婦に不合格だった方は暗黙のうちに退学を選択することが多かったのではないかと推測しています。


ですから私たちも5月の看護師合格発表までは、「落ちたらこの学校から消えますね」と不安を打ち消しながら冗談を言い合っていました。


ところが、大学で助産課程を選択した場合には、看護師の資格が無いまま実習に行くことになります。
3年で看護師国家試験を受けてそのあと助産師課程で実習という方法もできるのでしょうが、それでは専門学校となんら変わらないわけで、大学制度自体の矛盾になってしまいます。


1948(昭和23)年の保助看法の施行以来、看護婦の免許取得後に助産婦教育と実習が行われていたことの法律理解の根幹ともいえる部分ではないかと思いますが、看護師の資格なしに分娩実習がどのような法的な解釈から可能になったのか、よくわかりません。


どなたかご存知の方がいらっしゃったら教えてください。


<看護職の免許の順序>


もうひとつの矛盾は、大学で保健師助産師看護師の統合教育が行われるようになってから、卒業時点で「助産師(あるいは保健師)の資格は合格したが、看護師は不合格だった」という方が出現したことです。


この場合、看護師の免許がないのに助産師(あるいは保健師)としての業務は可能なのかという問題が生じました。


人数はかなり少ないとは思いますが、そういう新卒が配属されたら現場はそうとう対応に困ったことと思います。


この点に関しては、日本看護協会「第2部 保助看法の改正経緯」の「免許」(p.54)で2006(平成18)年に改正されたことが書かれています。

これまでは同時に3職種の国試を受けて看護師国家試験に合格しなくても保健師国家試験が受かっていれば保健師免許が取得できたが、改正後は看護師国家試験の合格が保健師免許を取得する上での要件となった。これは助産師についても同様である

まずは看護師教育と国家試験、そのあとで保健師助産師養成課程という従来の方法が合理的であるということになるのではないでしょうか。


そうであるならば、なおさら看護師の免許なしに分娩介助実習を行うことがどのような根拠によるものか明確に示す必要があると思います。
それがなければ、看護学生にも分娩介助実習は可能という理解もなりたってしまうことでしょう。


4年制の看護大学の中での、保健師助産師教育は見直しの時期に入ったのではないでしょうか。


かといって、保健師助産師の養成が「大学院」のレベルにふさわしいかと言うと、何か違うような気がします。



やはり看護基礎教育は3年間、そして減らした実習分を補うことも含めて免許取得後1年間の実践力を養う研修期間をもって、正式に看護職として認める。そのうえで保健師助産師になりたい人は専門養成校に進学する。
それが現実的のように思います。


研修を含めてその教育に要した4年間を「大学教育と同等の教育」と社会が認めればよいだけの話ではないでしょうか。
あるいは大学や大学院への進学がしやすいような措置をとれば、臨床実践を積んで研究者や教育者、あるいは管理職になりたい人も育つことでしょう。


私のように看護の臨床実践が大好きという人の方が絶対的に多いのではないかと思いますから。


というわけで、長々と続けてきた看護基礎教育の大学化については一旦このあたりで終わります。






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