助産師と自然療法そして「お手当て」13 <マクロビの「食をととのえて迎える出産」>

マクロビオティックの中でも出産・子育てに言及した本は、著者が違うと内容もバラバラでそれぞれがそれぞれに「理論」を作っているというのが印象です。


ですから、今回の記事からしばらく、栄養士という肩書きのある大森一慧氏の本に従ってマクロビの出産に対する考え方を紹介しますが、これが果たしてマクロビを実践している人すべてに浸透しているかどうかはわかりません。


特別に注釈がなければ、大森一慧氏の「自然派ママの食事と出産・育児」(サンマーク出版、2005年)からの引用です。


<「安産は保証される」>


上記の本に「妊娠・出産・育児と食事との大切な関係」という章があり、その中の「食をととのえて迎える出産は、トラブルが少なく、安定している」というところからみていきます。


お産についての大森一慧氏のとらえ方は、以下のようです。

お産は、太古から行われてきた女性の生理的な現象。とはいっても、だれもがいつでも安産とは限りませんね。お産が始まってからトラブルが発生するケースも多く、予断が許されないのが現実です。(p.39)

ごく一般的な受け止め方で、リスクも認識されているようです。


妊娠出産は赤ちゃん主導で経過するものですが、その原動力は母体であり、トラブルの原因もまた母体にあることがほとんどです。その原因は、暑さ寒さ、湿気などの外的環境からくるものもあるでしょうし、お母さんの精神状態が大きく影響することもあるでしょう。
けれど、最も大きな影響力をもつのが、お母さんの毎日の食事。

このあたりから、独自の考え方が多くなってきます。


この「トラブル」をいわゆる産科学的な「異常」と解釈したときに、「トラブルの原因もまた母体にあることがほとんどです」と言い切れるほど周産期医学の中では妊娠・出産の異常の原因についてはわかっていないといえます。


胎児側の原因や胎盤・臍帯・羊水といった胎児付属物による異常もあります。
まして、そうした異常の原因について「最も大きな影響力を持つのがお母さんの食事」とわかっているのはごく一部にすぎないものでしょう。


たとえば妊娠・出産のトラブルではないですが、お母さん方がよく心配されるアレルギー性疾患に関しても、20年前ぐらいはかなり厳しい妊娠中からの除去食が一部で勧められた時代がありましたが、「Q&Aで学ぶ お母さんと赤ちゃんの栄養」(周産期医学2012 vol.42 増刊号、東京医学社、2012年11月)の中では以下のように書かれています。

Q.妊娠中の食事で赤ちゃんがアレルギーになるとききましたが?
回答のポイント
・アレルギー性疾患の発症には、遺伝的要因の有無ならず、胎内環境、出生後の食および住環境が関係しているが、特定の食物がアレルギーの発症に関与することはない。
・特定の食品の摂取を避けることによりアレルギー疾患を予防することは難しい。
・妊娠中には、特定の食品をとりすぎることがないように、偏食をすることなく、バランスのよい食事をとるようにする。

「Q&Aで学ぶ お母さんと赤ちゃんの栄養」の産科編をざっと見ても、妊婦さんの食事療法が妊娠・出産の異常を予防できることがはっきり書かれているのは妊娠糖尿病についてのみでした。


大森一慧氏が執筆した2005年当時と比べても、周産期医学の中での母体の食事療法に関しては大きな変更はないと思われます。
ところが、大森一慧氏は以下のように書いています。

お母さんが、自然の恵みいっぱいの食材を、陰と陽のバランスをととのえて食べていれば、おなかの赤ちゃんは順調に育ち、予定日前後にスムーズにお産が始まります。ところが、お母さんの食生活が乱れていれば、お産の自然な経過はさまたげられるでしょう。

大森一慧氏は、エコー診断の発達で正確な予定日が算出できるようになったことで実質的な予定日超過(40週以降)や過期妊娠(42週以降)が減少していることをご存知かどうかはわかりません。
いずれにしても、予定日を越えて陣痛が発来しない原因は多くの場合は原因不明という認識です。


お産は病気ではないので、自然の法則に従った暮らし方をしていれば、安産は保証されるはずですし、それは私自身を含め多くのお母さんたちで実証ずみでもあるのです。


「食生活が乱れていれば、お産の自然な経過がさまたげられるでしょう」と不安をあおり、「自然の法則に従った暮らし方をしていれば、安産は保証されるはずです」と安心させる。


そんなうまい話があるはずはないな、と少しでも疑問に思えればのめりこむことは防げるでしょう。
でもやはり妊娠・出産というのは、わかりやすいお守りのようなものを求めたくなる気持ちもわかりますね。


大森一慧氏の妊娠・出産と食についての総論的な部分を今回は紹介しましたが、わずか十数行のその部分に対しても疑問と反論でいくつも記事が書けそうです。


なぜこんな話を認めてしまう助産師がいるのか。
認めるというよりは都合の悪い部分にははっきり正面からは批判をせずに、マクロビの「おしゃれな雰囲気」を活用したかったのかもしれません。
でもそれは、本質ではなく演出に過ぎないと思いますが。


大森一慧氏の安産を保証する話について、もう少し続きます。




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