助産師と自然療法そして「お手当て」 41 <母子整体とは?ー妊産褥婦編>

助産師の中の整体の火付け役ともいえる母子フィジカルサポート研究会(母子整体研究会)はどのような考えに基づき、どのような対応を行っているのでしょうか。


しばらくこの母子フィジカルサポート研究会(母子整体研究会)についてみていこうと思います。


<母子フィジカルサポート研究会の設立趣意書より>


代表挨拶の中に「骨盤ケアとべびぃケア(仮称)を周産期のスタンダードケアに」とあります。
その「骨盤ケアとべびぃケア」とは何か、設立趣意書には以下のように書かれています。

妊産婦の腰痛の特徴は骨盤に由来するものと考えられる。なぜならば、胎盤から分泌されるじん帯を緩めるホルモン=リラキシンにより、骨盤の関節が緩み、それにより関節が成立することが主な原因であると報告されているからである。
ところが、このことはまだごく少数の整形外科医や産婦人科医にしか認知されておらず、ましてやそれに対する対策や治療を行う者がほとんどいないのが現状である。
妊産婦は出産が終わるまで痛みを我慢せざるを得ない。このように、妊産婦の腰痛という分野は、産婦人科医・助産師・看護師・整形外科医・療術業者の誰もが自分の診るべき分野と考えておらず、「医療の隙間」に置かれている。


この設立趣意書は2011(平成23)年に書かれたもののようです。


その5年前に出版された「周産期の症候・診断・治療ナビ」(『周産期医学編集委員会』編、東京医学社、2007年)には、妊産婦の腰痛に関して「姿勢性腰痛」「腰椎椎間板ヘルニア」とともに「骨盤輪不安定症」について以下のように書かれています。

2)骨盤輪不安定症
 骨盤輪不安定症とは女性において仙腸関節や恥骨痛結合に異常可動性が生じ、骨盤輪が不安定となることが原因となって主に腰痛をきたす疾患である。
症状は腰仙部や恥骨部の疼痛や圧痛であり、ときに歩行障害を伴うことがある。妊娠すると、初期からエストロゲンプロゲステロン、レラキシンなどのホルモンが急増して、その生理作用により、骨盤輪のじん帯が弛緩する。したがって体重増加がほとんどみられない妊娠早期から腰痛を生じることが特徴である。
 骨盤輪不安定症による腰痛は、歩行や起立、寝返り、立位の保持といった日常生活の動作時に起こり、両側の仙腸関節部を中心とした痛みであり、通常の腰痛よりやや尾側よりである。また少数ではあるが、下肢の痛みを伴う妊婦もいる。通常は、痛みの訴えは両側性であるが、左右で疼痛の程度に差が見られたり、片側のみのことも少なくない。
(中略)
 初回出産後に本疾患による腰痛を発症した女性は、次回以降の妊娠、出産時に、より高度の症状を呈する傾向がある。分娩直後に発症ならびに増悪した腰痛の多くは、骨盤輪不安定症が多い。

すでに、医学的に妊娠中の腰痛に対しては症状・原因、そして治療法や管理方法が明らかになっていて、私たちもそれに従って妊産婦さんにかかわっていました。



「姿勢性腰痛」に対しては、正しい姿勢や日常生活の中での動き方のアドバイス、あるいは軽いストレッチ・水泳などの運動療法と、アセトアミノフェンや湿布などの薬物療法もあります。
椎間板ヘルニア」に対しては、安静、鎮痛剤・神経ブロック、装具などの治療法を行います。



それに対して「骨盤輪不安定症」については以下のように書かれています。

 骨盤輪不安定症は姿勢性腰痛と異なり、産褥期にも症状が持続ないし悪化することが少なくない。治療法として安静と薬物療法と装具療法が一般的であるが、骨盤支持ベルト(トコちゃんベルト(R)など)が有用である。
 骨盤支持ベルトは、上前腸骨棘(きょく)付近ではなく、恥骨と仙骨部を中心とした、骨盤輪を強く締めるタイプのものを使用する。骨盤輪不安定症の妊婦に骨盤支持ベルトを装着させると、腰痛が劇的に改善することが多い。逆に骨盤支持ベルトを装着して症状が改善する場合には、骨盤輪不安定症と診断することも可能である。装具療法により症状が軽減しない場合や、出産後も症状が持続する場合には整形外科医による診断と治療にゆだねる。

そう、骨盤輪不安定症の腰痛に対しては、トコちゃんベルトを含む骨盤支持ベルトの効果が認められています。
それが、昔はさらしで恥骨から大転子部あたりを固定する方法だったわけです。


そして、改善されなければ整形外科へ紹介することも書かれています。


これだけ医師側では治療方針が明確なのに、なぜ「医療の隙間」と感じるのでしょうか?


私は、どちらかというと助産師側がこの骨盤輪不安定症に対する看護基準を標準化(スタンダードケア化)することが遅れているからだと考えています。


以下の2点を明確にすればさほど難しいことではないと思います。

1.骨盤支持ベルトは、上前腸骨棘付近ではなく恥骨と仙骨部を中心とした骨盤輪を強く締めるタイプであれば、特殊な製品である必要はない。


2.骨盤支持ベルトは、妊婦全員が装着する必要はない。腰痛があり、医師の診察により骨盤輪不安定症の可能性と診断された場合に、生活へのアドバイスとともに骨盤支持ベルトを勧める。


妊娠に伴う腰痛も「症状」であるわけなので、必ず医師の診断と治療方針に基づいてケアをすることが大事です。


助産師側が腰痛緩和以外の独自の効能を謳う骨盤ベルトを信じてしまうことによって、医師の治療方針に対応した看護基準の標準化が遅れたといえるのではないかと思います。




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