助産師と自然療法そして「お手当て」 45  <「妊娠9週までに丸ナス型の子宮作りを!」>

「妊娠9週までに丸ナス型の子宮作り」って何のことやらと思う方がほとんどだと思います。
助産師なら「助産雑誌」などに掲載されている広告で、見たことがある人は多いでしょう。


「こわいことが書いてあるから」と捨てられたパンフレット」にも説明が載っています。


妊娠初期のエコー(超音波)写真を見たことがない方は、「胎児の超音波写真」を参考にしてみてください。
ネットって本当に便利ですね。こんなに見やすい資料がすぐに手に入るので。リンク先の施設に感謝です。


<「9週までに骨盤ケアを実行するのが理想的」?>


さて例のパンフレットには「姿勢の良い元気な赤ちゃんを産み育てるための方法」が書かれています。


2枚のエコー写真が載っていて、一枚には「現在、多くの人が細ナス型」、もう一枚には「1995年ごろまでは多くの人が丸ナス型でした」と書かれています。


お子さんの妊娠初期のエコー写真をみて、「本当だ。私も細ナス型だ」と思ってドキッとされる方が多いことでしょう。


上で紹介した「胎児の超音波写真」をもう一度じっくり見てくださいね。
12週ごろまでの写真は、「細ナス型」になったり「丸ナス型」になったりしています。
で、まぁそれがどうしたという程度の話なのですけれど、パンフレットには以下のような解釈が載っています。

(パンフレット内の)二つの胎のうの写真は同じ人のものです。でも出産を繰り返すごとに、骨盤の状態が悪化し、胎のうが丸みを失っていきました
あなたの胎のうの形は?

やわらかい子宮だと丸ナス型の胎のうになり、赤ちゃんは自由に動けてあぐらを組めます。かたい子宮だと細ナス型の胎のうになり、赤ちゃんは自由に動けず、ひざを伸ばしがちになります

パンフレットにはもう一枚エコー写真が載っています。
そちらには、以下のような解説が書かれています。

これは他の方の妊娠14週の細ナス型の子宮です。両膝を伸ばして、両足の甲が顔の前にありますが、この後、骨盤ケアを行ったところ、ひざがまがりました。ひざを伸ばした状態が妊娠後期まで続くと、股関節脱臼の原因になります。

丸ナス型の子宮の中で、赤ちゃんがあぐらを組んで両手をなめられる姿勢にしましょう。

そのために「骨盤ケア」を勧めているらしいのですが、パンフレットには骨盤ケアがどういうものなのかは説明されていませんが、「9週を過ぎた人はすみやかに、トコちゃんベルト1・2(*原文はローマ数字)で骨盤輪支持をしたり、操体法やゴムチューブ体操などを行いましょう」と書かれています。


9週ぐらいって、何をしてもしなくても「細ナス型」になったり「丸ナス型」になったりするのですけれどね。


<なぜ妊娠初期のエコー写真は「細ナス型」になるのか>


私自身は超音波(エコー)について専門的に勉強したわけではないので、ごく一般的な(助産師として常識的な)範囲の知識しかありませんので、もし間違った記述や不正確な記述がありましたらどうぞご指摘いただければ幸いです。


まず、超音波画像は、X−P(レントゲン)とは違って、「そのものを映し出している」わけではないということがあると思います。


超音波のしくみを説明できる知識はないのですが、冒頭で紹介した「胎児の超音波写真」をみるとわかるように、超音波写真というのはバームクーヘンを切り分けたような独特の形をしています。
超音波(エコー)で探査している範囲と、体内の組織に反射して戻ってきた超音波を描きだしている「だけ」なので、そこに映った形がそのままの形を現しているものではないということがいえると思います。


それから、実際に子宮腔内が丸く映ったり、細長く映ることもありますが、それは妊娠の羊水腔の変化によるものだと理解していました。


「胎児の超音波写真」の妊娠9週と妊娠11週の写真がわかりやすいと思いますが、胎児のまわりにうっすらと白い輪がみえます。
これが胎のうの部分です。
妊娠4〜5週あたりで、子宮内の妊娠が確認されたときに、この胎のうが小さな輪として映ります。


その後、徐々に子宮腔は細長く映ることもありますが、よく見れば胎芽が育ち始めている胎のうは子宮腔よりも小さく丸く写っています。


子宮腔内の胎のう以外の部分は何かというと、羊水ができ始めている部分(羊膜腔)です。
それについての説明を、「周産期医学必修知識 第7版」(『周産期医学』編集委員会編、東京医学社、2011年)から引用します。

妊娠初期の羊水の産生は母体血漿からの漏出が主と考えられている。また、妊娠初期に羊水腔を羊水が満たし、羊膜腔が拡大し羊膜と胚外体腔は接近し融合する形状を呈する。胚外体腔は徐々に圧縮されて狭小化するが残留した液体が偽羊水と呼ばれる。
胎児側からの羊水の産生については妊娠20週未満の胎児の皮膚は角化しておらず、胎児血管から胎児血漿部分や水分が羊膜腔に漏出する程度で、妊娠初期での胎児側からの羊水の産生はわずかである。
(「13. 羊水」p.39)

つまり、胎芽あるいは胎児をつつむ白い輪の部分は、母体から作られた羊水が溜まり始めた部分です。
そして最終的に羊水を包む膜がその白い輪の部分と一体になるということだと思います。


ですから、妊娠初期の超音波画像では、妊娠週数によって子宮腔内が丸く見えたり細長く見えたりすることもある、ということだと理解していました。


また妊娠初期の超音波写真は、分娩予定日の計算が重要なポイントですので、そのために赤ちゃんの頭殿長(とうでんちょう)といって頭からお尻の部分までの長さの計測をします。
その頭殿長が一番見えやすい位置に超音波があたるような角度にします。


長細いナスを縦に切れば切り口は細長くなりますが、輪切りにすれば切り口は丸くなります。


ただ、それだけのことだと思っていました。


子宮腔内が細長く映っても、異常と診断したりあるいは何か異常が起きるので予防的なことをする必要があるという医師の判断も今まで聞いたことがありません。


超音波画像で妊娠初期に細長く映っても丸く映っても、それも自然な変化だと言えるのではないでしょうか。
皆、そのように映るので。


つまりは「それ(骨盤ケア)」をしてもしなくても、結果は同じでしょう。


骨盤ケアを掲げている助産所のHPで「エコー写真で子宮の形が気になる方」と書いてありました。
まずは気にしなくてよいと思いますし、それでも気になる方は「まずはお医者さんへ相談」ですね。
行くところを間違わないように。


それにしても最近では助産師向けの「超音波診断」の研修会が開かれたり、助産外来や助産所でエコーの器械を扱っている助産師が増えてきたようですが、勉強した人たちの中から「助産雑誌」などに載っている広告をおかしいと是非反論して欲しいものです。




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