助産とは 6 <助産は医療>

「私たち助産師は医療行為ができないので、自然な経過を大事にするお産をします」


よく耳にします。


助産師は本当に医療行為をできない人でしょうか?


前回の記事で、保健師・看護師と助産師の相違点について2008年版の助産師業務要覧では以下のように書かれていることを紹介しました。

保助看法第37条に規定されているように「医療行為の決定」には医師の指示が前提となるが、助産師が行う「助産」「助産の業務に付随する医療行為」の決定には「医師の指示」という条件がない。

また同上の助産師業務要覧には、「周産期医療の特殊性と法」(p.236)の中で以下のように書かれています。

助産は医療行為であるので医師の業務独占(医師法第17条)に抵触するが、これを阻却するために保助看法第3条、第30条を規定し、助産師に一定の条件のもとでその医業の一部を業として認められている。

つまり助産そのものが医療であり、医療行為を内包するものであることが明確になっています。


助産師もまた医療の一部の資格であり、医療行為をすることが前提であること、そして「助産に付随する業務」という条件のもとに「医師の指示」なしに臍帯切断などの医療行為が許されているわけです。


ということで、「私たち助産師は医療行為ができない」という言い方は間違いだといえるでしょう。


助産は誰ができるのか?>


助産の定義があいまいであると前回まで書いてきましたが、仮に2012年版の助産師業務要覧に載っている「助産とは」に従って考えてみます。

分娩の開始(分娩陣痛の発来、破水、子宮頚管の開大、卵膜下部の剥離によって生ずる出血など、いずれの場合も含む)から後産娩出までの(助産師が行う)諸処置


助産師が行う)の部分を、医師と看護師が行うにしてもなんら問題のないことです。
実際に助産師の勤務していない産院では、医師と看護師さんが助産を担っています。


助産は医療行為であるから、本来は医師が行うものである」
少なくとも戦後の日本では、そのように医療の方向性が法律で定められました。


ただし助産師と、医師の指示のもとに看護師が行うこともまた保助看法第30条で規定されていることは「助産とは」で書いたとおりです。


助産は医療行為であるので医師の業務独占(医師法第17条)に抵触する」のに、なぜ助産師という資格がつくられたのでしょうか。


それがこちらの記事で紹介した日本産婦人科医会の保助看法に対する考え方にあるように、出産の医療化の過渡期として「産婆救済法」が必要であったという背景なのだと思います。
再掲します。

全分娩の97%が家庭でおこなわれていた家庭分娩全盛期にできた法律で、助産師が医師法に抵触しないようにするためのものと解釈される保助看法には、分娩監視装置、超音波診断装置、胎児・骨盤レントゲン計測などの進歩、普及により急速に診断技術が向上した現在の産科医療には不具合な部分が多々できたと言わざるを得ない。


医師が全分娩に立ち会うことが夢の時代であった時に作られた保助看法による助産師の規定は、その後、助産師の多くが病院・診療所で働くようになってもその解釈に混乱を生じさせています。


まるでのど元にひっかかった骨のように。


助産をめぐる医師法保助看法の関係について、産科医八木謙氏の「やぎこらむ」を読むことで私は頭の整理をすることができました。
「助産師法と医師法の狭間で」


助産師の中には、この八木氏が書かれていることを認めたくない人もいることでしょう。


何がそれを認めさせなくしているのでしょうか。
おそらく感情の部分ではないかと思います。
助産師としてのプライド、あるいは信念のようなもの。


でもその感情の部分を守り通そうとすることで、日本の周産期医療の将来に本当によいことなのでしょうか?


助産ってなんでしょう。



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