厚労省から出されている就業医療関係者の報告によれば、2010(平成22)年の助産師の就業者数は29,672人となっています。
現在、どれくらいの分娩取扱い施設があるかというと、「周産期医療の広場」では2643件のようです。
2012(平成23)年の出生数は約103万3千人です。
周産期センターから病院・診療所、そして助産所までその規模も助産師の就業数も大きく異なりますし、いずれにしても103万人すべての妊婦健診や分娩に助産師が関われるはずがありません。
どれくらいの割合か正確な統計を知らないのですが、日本の出産の多くは産科施設に勤務する看護師さんが実際に担っています。
医師法のもとに助産を行える医師の指示によって、妊産婦さんの観察を行い、分娩を母子ともに安全に終わらせるために「分娩経過を観察し、産婦の身辺の世話」すなわち「分娩の介助」を行っています。
同じことをしても、看護師さんの場合には「観察」し「異常の有無を判断」すると表現するのに、どうして助産師の場合には「診察」「診査」であったり「診断」になるのでしょうか?
<助産診断の目的>
意図的か無意識なのかわかりませんが、助産師の中では医師による医学的『診断』と助産『診断』をあいまいに使っているからではないかと思います。
そしてその助産診断の「助産」という言葉の定義さえない状態で。
2008年に出された「新版 助産師業務要覧 増補版」(日本看護協会)では、保助看法第38条について書かれた中で「助産診断」という言葉が使われています。
保助看法第38条は次の通りです。
助産師は、妊婦、産婦、じょく婦、胎児又は新生児に異常があることを認めたときには、医師の診察を求めさせることを要し、自らの者に対して処置をしてはならない。ただし臨時応急の手当についてはこの限りではない。
保健師・看護師も業務上で関わる対象が医師の診察を受けたほうがよいと考えた場合には、「受診したほうがよいかもしれない」とアドバイスすることもあると思います。
保健師・看護師のその「異常のアセスメント」と診察を求めさせる行動は法的には規定されておらず、上記法文の規定は「助産師のみに規定されている」ものでその理由を以下のように説明しています。
2.保助看法第37条に規定されているように、「医療行為の決定」には医師の指示が前提になるが、助産師が行う「助産」「助産の業務に付随する医療行為」の決定には「医師の指示」という条件がない。
3.助産師の「異常のアセスメント」能力を法的に定め、異常時に医師の指示を求めるように定めたものである。
そして以下のようにまとめられています。
保助看法第37条に示した「異常」のアセスメント能力と技術水準は、助産師の専門性を基準に判断されるので、時代の要請に即した医療水準の助産診断と助産技術が求められる。
分娩を取り扱う病院・診療所では、看護師さんが分娩経過を観ている施設もあります。
産婦さんの様子や陣痛、あるいは胎児心拍を観察しながら、医師に報告したほうがよいかどうか「異常のアセスメント」を常に行っているのは、助産師も看護師さんも全く同じです。
なぜあえて保助看法の第38条を「助産師の『異常』のアセスメント能力を法的に規定」するもの、あるいは「助産診断」を規定し、「医師の指示という条件」がないことを明確にする必要があるのか。
それは、説明文の「1」に書かれたことにあるのだと思います。
つまり、助産診断は「異常のアセスメント能力」であり、その目的は「助産ケア」業務であること。
そして全く同じように看護師さんが異常のアセスメントを行っても、それは助産診断とは言わない(言わせない)ことでしょう。
それは、助産師の裁量権を手放すことになってしまうので。