医療介入とは 88 <CTGは何を表しているのかー生活者としての胎児>

分娩監視装置による陣痛胎児心拍モニタリングを実施するためには、陣痛と胎児心拍を感知する直径8cmほどのトランスデューサーを産婦さんのお腹に当てて固定します。


陣痛計は臍の上の子宮底のあたりに付け、胎児心拍計は胎児の背中のある方向に装着します。


ところが、これがけっこう難しいことがあることは、分娩監視装置を取り扱っていれば日常茶飯事というぐらい体験しているのではないかと思います。


なかなか陣痛がうまくとれない、装着位置をいろいろ変えても思うような波形がでないことがあります。
あるいは胎児心拍がはっきりとれず、とぎれとぎれにしかとれず、手で胎児心拍計を固定し続けないと聴取できないこともあります。


産婦さんの体型もひとりとして同じではないですし、産婦さんの体勢によっても、あるいは胎児が位置を変えたりするだけで陣痛計の当て方を変えていく必要があります。
また胎児の向きや位置、大きさもまたひとりひとり違いますし、分娩が進むにしたがって胎児の位置の変化に伴って、心拍数が良く聞こえる場所も変化します。


pakoさんのコメントにある、「トイレの度に再装着するという対応に追われ、モニターをチェックすることができない」「肥満妊婦などでは児心音がひろいにくく、つつきっりになってしまう」という助産師側の気持ちにも、そのような分娩監視装置の装着に手間を取られることへの抵抗感があるのかもしれません。



でも反対に、持続モニタリングを行うことは常に産婦さんと胎児の状態に合わせていく必要があるわけで、むしろ「つきっきりになる必要がある」という受け止め方に私はなりました。


ずっと産婦さんの側にいられる口実とでも言えるかもしれません。


<生活者としての胎児>



「周産期医学」2012年4月号(東京医学社)の「CTGは何を表し、何をどうやって知ることができるか」の中に、以下のように書かれていることを昨日紹介しました。

日本産婦人科学会周産期委員会が、判読の標準化のために心拍数パターンを定義しなおしたが、それでも判読に不一致が生じることも少なくない。

その後に次のように書かれています。

また、胎児心拍数波形だけが独り歩きして、なぜ心拍数が変化してさまざまな波形が出現するのか、その波形が胎児の生理や病態とどう結び付くのかといった本質が見失われがちである。


そう、私が持続モニタリングをしている産婦さんの側にいることで「おもしろい」と思えるようになったのが、まさにこの点なのではないかと思います。


言葉を変えれば「生活者としての胎児」を観察するおもしろさです。



眠ったり、活発に動いたり、いろいろなことをしている胎児の様子を知る手がかりになります。


「陣痛が来る前には、少し動いて心拍数が上がるのはなぜだろう」
「こんなに強い陣痛がきているのに眠っているのはどうしてだろう」
「さっきまでほとんど睡眠パターンがないぐらい活発だったのに、急に眠り始めたのはなぜだろう」
「夜中を過ぎると、陣痛があっても1〜2時間ぐらい睡眠パターンが続くことが多いのはなぜだろう」


いろいろな発見があり、胎児が生活している姿を想像することで、なんともいえないいとおしさのような感情が沸きあがってくるのです。


これはあくまでも私の体験に過ぎませんが、分娩が進行して胎児が産道を下降し始める頃になると、しゃっくりをする胎児が多くいます。
印象としては、8割から9割近いです。


しゃっくりが聞こえ始めると、もうすぐ産婦さんも体に力が入り始めるかもしれないと予測しています。
あ、でも検証されたことではありません。単なる偶然かもしれません。


「胎児が苦しくないか」どうかのサインをキャッチすることは最重要ですが、このように「胎児は何をしているのか」という視点を持つと、持続モニタリングに対する受け止め方もまた違ってくるのではないかと思います。