母乳のあれこれ 4 <「母乳が出すぎる」という状態と「乳房緊満」>

ぽむぽむさんの「母乳育児に成功した理由を考えてみました」の中で、「母乳が出すぎると、今度は乳腺炎の心配」があったことが書かれていました。

母乳が出すぎると、今度は乳腺炎の心配が。
私は、退院後しばらくして、産褥入院したのですが
産褥入院したときには、乳腺炎一歩手前の状態!
助産師さんに母乳マッサージをしてもらって
なんとか乳腺炎にならずに済みました。
退院までに詰まりのないおっぱいにしてもらったため
その後がラクだったと思います。

この文を読んで、私には3つの可能性を考えました。

1.単に、強い乳汁うっ滞の状態だった
  (これは母乳が出すぎたこととは無関係で、初産婦さんは平均して2〜3週間の間張りやすい時期が続くため)


2.乳汁うっ滞が続いて、乳腺炎になりかけた
 (これは母乳が出すぎたことが理由ではない)


3.帝王切開のため、退院後ぐらいに生理的な乳房緊満(乳房うっ積)と乳汁うっ滞が遅れて出現した
 (これは乳腺炎とは別の状態、また母乳の出すぎが理由ではない)

「前回は母乳が出すぎた」と表現される方の多くが、あるいは助産師や看護師が「母乳分泌過多」と表現する状況は、1の「乳汁うっ滞」に適切な対応ができていなかったのではないかと私は考えています。


その具体的な話に入る前に、いわゆる「おっぱいの張り」には乳房緊満(乳房うっ積)と乳汁うっ滞の2種類があることについて説明します。


<「乳房うっ積」と「乳汁うっ滞」>


出産後2〜3日目頃におっぱいの張りが急に出始めます。
個人差があって、強い場合もあればそれほどでもなく過ぎていく場合もあります。また産後数日以降に遅めに「張り始める」方もいらっしゃいます。


この状態を看護用語では「乳房緊満」と一般に呼んでいますが、さらに正確に表現すると「乳房うっ積」です。


母乳哺育に関する用語はまだ十分に定義されていないのが現状ですが、「母乳哺育と乳房トラブル 乳房ケアのエビデンス」(立岡弓子氏著、日総研、2013年)には以下のように説明されています。

一般的に、産褥早期の生理的乳房の緊満状態は、広く臨床において乳房うっ積と呼ばれている。乳房うっ積は、乳汁産生のために乳房内で起こる血液・リンパ液の流入と乳房からの還流のアンバランスから生じる。(p.154)

ひどい場合だと、乳輪全体にむくみまで出て赤ちゃんが吸えなくなったり、搾ろうとしても搾りにくい状態になります。


それに対して、「乳汁うっ滞」についてはこれだと思う説明をまだ目にしたことがないほど、その言葉が指す状態が十分に私たち助産師でさえ共有できてきないのかもしれません。


私が「乳汁うっ滞」と表現するときは、「乳輪を刺激すれば母乳が十分に分泌してくる状態にも関わらず、抱き方・くわえさせ方などが理由で十分に分泌されなかったために硬結や痛み、時には熱感が感じられる状態」でしょうか。
ただその状態が即、乳腺炎というわけでもなく、いつでも乳腺炎になる可能性はあります。



<乳房うっ積と乳汁うっ滞の境界>


上記の説明のように「生産される母乳と、外に出る母乳(還流)のアンバランスにより強い張りが起こる」というのが、一般的な解釈だと思います。
なので出産早期からの頻回授乳を勧めていることが多いのだと思いますが、それが乳房うっ積の予防になるというエビデンスは、まだまだ乏しいのではないかと私は考えています。


というのも初産婦さんと経産婦さんでは、このおっぱいの張り始めの状態は全く異なると感じることが多いのです。



初産婦さんの場合、この乳房うっ積が始まった初日には、搾ろうとしても「見た目の張り」ほどは母乳が搾れず、触れば触るほど張り返してしまうことがあります。
それでも翌日になると、むくみなどが軽減して射乳反射も見られて急に分泌量も増えていきます。


それに対して、経産婦さんの場合は見た目は初産婦さんと同じでも、状態は全く異なります。
乳房うっ積が始まった当日にはすでに「乳汁うっ滞」も起きていることが多く、搾乳をすることでかなり軽減していく方が多い印象です。


どこからどこまでが「乳房うっ積」でどこからが「乳汁うっ滞」になるのか。
その素朴な疑問に、まだ臨床の経験は表現する術もないのが現状だと言えます。


ただし、その一見強い乳房の張りは「乳房うっ積」であれ「乳汁うっ滞」であれ、「母乳が出すぎた」わけではないことを次に説明しようと思います。



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