本のご紹介「謎解き超科学」

「母乳についてのあれこれ」も1ヶ月近く書き続けていました。まだ不定期に続きますが、一旦、一休みです。


母乳育児についてはこれまで書いてきたように、1980年代から90年代ぐらいまでの「それまで言い伝えられてきた個人的な体験談」がベースの話を助産師や医師が勧めてきた時代に比べて、2000年代ぐらいになると「科学的な」話がだいぶ増えてきたようです。


でもたしかに母乳の成分など一見「科学的」な話だけれども、「母乳をあげることが『最も良い』こと」といった価値観や思想を伴うと、その有効性だけが独り歩きしてしまうように感じます。
そして医療従事者側が「完全母乳」という言葉を使い出したときに、「科学のようで科学でないもの」に果てしなく近づいていく危うさを感じてしまうのです。


母乳のメリットあるいはミルクのデメリットが「科学的な装い」の言説で「針小棒大」に伝えられると、目の前の赤ちゃんが混合栄養で元気に無事に育っていても、「自分が母乳だけで育てられなかった」「やりかたさえきちんと教えてくれればできたのに」という気持ちとの葛藤を強く持つ方を生み出してしまっているように思えるのです。


そういう時に、ふとミルクや人工的なものへの否定的な感情が生まれやすいのかもしれません。
まぁ人は合理的にだけ生きていけるわけではないのですが、でもそこから「合理的な装いの不合理の世界」へはまり込まないようなブレーキを備えることは大事だと思います。



さて、私がブログを始めるきっかけになったおひとりのdoramaoさんと、いつもこのブログをtwitterで紹介してくださるうさぎ林檎さんが執筆陣のお一人として書かれた本が出ました。
遅くなりましたが、その本の紹介です。

「謎解き超科学」
ASIOS(超増現象の懐疑的調査のための会)
彩図者、2013年11月22日

子育て中のお母さんたちが手にしそうにはないタイトルと主催している会の名前ですが(すみません、笑)、中身はまさに出産・子育て周辺に跋扈する「伝説」でどこかで耳にするような内容がたくさん書かれています。


doramaoさんは牛乳有害論、母乳、マクロビそして酵素栄養学についてを、日本一のホメオタであるうさぎ林檎さんはもちろんホメオパシーについて書かれています。


構成は、各章の初めに「伝説」が書かれています。
新聞や雑誌あるいはネットなどでよく見かける話です。


「伝説」の部分は説得力があり、kikulogのニセ科学の議論を読み続けてきた私でもふと信じそうな部分があって、内心ヒヤリとしました(笑)。
こうしてあやしさよりも何かすごいことに見えてしまいながら、するりと日常生活に入り込んでいくのでしょう。


その「伝説」の後に、各著者の「真実」としての説明が書かれています。
かなりわかりやすく書かれていると思いますが、説明を読み、理解するというところがふだんの生活では面倒になり、「わかりやすさ」をもとめてニセ科学にはまってしまうのかもしれません。



でも、是非一度目にして欲しいと思います。


この内容が頭のどこか片隅に入っていれば、全て理解していなくても「あ、なにかあやしい」とアラームがなることでしょう。



日本社会の出産育児周辺には一見関係ないような「ID論」も、アメリカ社会のキリスト教を考えるのに参考になるかもしれません。
こうしたアメリカの一部のキリスト教の強硬な思想は、他の国の宗教の強さともまた違う独特のものがあるように思えます。母乳推進運動を進めてきたアメリカの伝統主義的なキリスト教家族主義の広がりの背景にあるものが少し見えるような気がします。あくまでも、私個人の感想ですが。


それ以外にも、助産師の中でも取得している人達がいる「民間資格」に大いに関係のある「千島学説」「逆行性催眠」「オーリングテスト」などについても書かれていますから、ニセ科学をお母さん達に広げないためにも是非、助産師の教育課程で使われるとよいと思います。


是非、一家に一冊。
これからの人生の中で、繰り返し手を変えて現れる怪しい話に巻き込まれないためにも。


<ブログの紹介>


うさぎ林檎さんがひそかにブログを始められました。
「うさりーぬの日記ーあ、あとは勇気だけだ!」
コメント欄がないので、こちらで、おめでとうございます!


「あ、あとは勇気だけだ!」を勝手に解釈させてもらうと、身近に怪しいものを信じている人に「それはおかしいよ」と話をするのは思いのほか勇気がいることですね。
あるいはあやしい団体について、そのおかしさを追求することも勇気がいることだと思います。
うさぎ林檎さんならの、サブタイトルだと思いました。