おそらく助産師の中で「整体」という表現を使って妊産婦さんあるいは新生児・乳幼児になんらかの行為を行っているひとたちのほとんどが、前回の記事に書いたように母子整体研究会に関係しているのではないかと思っています。
その内容については、後に少しずつみていこうと思います。
それ以外にもいろいろな「整体」があるようです。今回は、母子整体でもなく、あるいは野口整体でもなさそうな整体についてみてみます。
日本語では頭蓋仙骨療法というらしいです。
頭蓋仙骨療法を実施している助産所のHPには以下のように紹介されています。
クラニオは頭蓋骨、セイクラルは仙骨。
体のいくつかのポイントに'5gタッチ'と呼ばれるほどの軽い圧で、赤ちゃんを抱っこするように柔らかく優しく相手に触れ、身体のこわばりを解きほぐし、また脳脊髄液の流れを促進することにより、自然治癒力をかためていくものです。
「脳脊髄液の流れを促進し」という一言で、「科学(医学)を装って科学(医学)でないもの」という赤信号が私には見えてしまうのですが。
頭のあちこちを押すとなんとなく気持ちがよくなるのは理解できますし、「ここを押すと何かツボがあるのでは」と思いたくなるのもわかります。
ところがもっとすごい効果があるようです。
この療法は痛みやこりを軽減させるだけではなく、深いリラクゼーション効果や自律神経を整える効果もあり、自閉症・精神障害・学習障害などにも用いられています。
全身骨格と分娩体位・母乳育児との関係性・重要性についても解説があります。
この効果をどのように検証したのか、医学の世界で議論をしようとしないところが民間療法の限界なのだと思います。
夫婦・親子でできる、家庭や職場で手軽にできる、お産の介助に役立つ、妊婦さんや赤ちゃんにもしてあげられる手当法です。
手軽にできる「お手当て」だそうですが、施術料はおとなが6,000円、赤ちゃんには3,000円と書いてあります。
皆が手軽にできるようになったら、施術料まで払って受ける人がいなくなるかもしれません。
<マタニティ整体>
次は、「マタニティ整体」と表現している助産所です。
当院での整体は、ボキボキと音をならすものではありません。頑張ってくれている筋肉を揉み解していくものです。
なぜ「頑張っている筋肉を揉み解す」必要があるのか、以下のような説明が書かれています。
そもそも、妊娠中には赤ちゃんの通り道を広げてくれるホルモンが分泌されます。
関節や靭帯を緩めてくれるホルモンなのですが、大きくなってくるお腹の分も支えなくてはなりません。
それを助けてくれるのが筋肉なのですが、筋肉も疲れてしまうのです。
そして、もう無理だからこれ以上頑張らなくていいように「痛み」として信号を発信しているものです。
「筋肉の疲れ」に対する整体というのもあるのですね。
「筋肉の疲れ」って具体的にどういうことなのでしょうか。
「痛み」がその指標として使われる根拠は何なのでしょうか?
そのあたりからして「科学(医学)を装って・・・」と私にはまた、赤信号が見えてしまうところです。
さて、その効果はどのようなものなのでしょうか?
ママがリラックスしていると、お腹の赤ちゃんも心地よくなってよ〜く動いてくれます。
身体と心を整えて、お産・育児を迎えられるように一緒にケアしていきましょう。
実際にはほとんどの妊産婦さんが「その方法をしていない」わけですが、何か問題や違いはあるのでしょうか。
そして、「整体」の具体的な方法はかかれていませんが「ストレッチ」「施術やエクササイズ」とあります。
「揉み解す」とありますが、国家資格を有する医療類似行為でもなさそうです、「整体」と表現しているので。
<手を当てる>
次は、手を当てるケアというものをしている助産院のようです。
整体は施術者が手技を使って矯正するというイメージがあるかと思いますが、○○助産院がケアに取り入れている「整体」は全く意味が違います。
ケアを受けてトラブルが改善しても、ご自分の心と体の使い方に気付かなければ元に戻っていきます。逆に、ご自分の心と体に気付き使い方が変れば、ご自分の力で「体は整い」、不調は改善していきます。最終的に、心と体を健康にしていくのは自分自身なのです。
そのため「手を当てさせていただくケア」+「ご自分でできる手当て・体操、体の使い方の指導」を助産院で行っているので、当院の整体は「助産師のケア+保健指導」になります。
え?大丈夫ですか?
整体が「助産師のケア+保健指導」って・・・。
具体的に「手を当てるケア」とは何なのでしょうか。
<手を当てさせていただくケア>は、とても軽く手を当てながら体の状態を観察していきます。手の温かさで気持ちよく眠ってしまうくらいです。
心や体に不調がある方は、気付かないうちに体に力が入っていたり、呼吸が浅かったりしますが手を当てる心地良さ・温かさで、心と体が和らぎリラックスしていきます。
人に体を触れられることが気持ちよいと感じる方は、リラックスできればそれでよいかと思います。
でも「保健指導」は違うようです。
体の緊張による腰痛などは手を当てるケアで緩和或いは消失しますが、ご自分の体の使い方を変えたり、ご自分で手当てをしていかないと、また元に戻ってしまいます。
一生、誰かの手による整体などがないと不調が改善しない体では困ります、整体などのいらない健康な体作りのために保健指導を行います。
最初から整体とか民間療法を教えるのではなく、標準化した保健指導が助産師の仕事だと思うのですけれど。
<助産師のいう「整体」っていったい何?>
ここの助産院のHPにはどこかで聞いたような内容が書かれています。
子宮は赤ちゃんのお部屋。フワフワでまん丸だと、子宮の血行も良くなり赤ちゃんに栄養がたくさんあげられます。それに緊張がないおなかは、なんと言っても温かいです。
(中略)
スイカみたいにまん丸で、ふんわりしていて、温かいおなかになりましょう。
そう前回の記事でも紹介した母子整体研究会の母性衛生学会の資料にも、6ページに同じようなことが書かれています。
「緊張」「硬い」「冷たい」などに対して「リラックス」「やわらかい」「温かい」はわかりやすいけれど、人の体はそんなに単純なものではないと思います。
こういうわかりやすさにも慎重さが必要ですね。
ある助産師は「脳脊髄液の流れ」、ある助産師は「筋肉の疲れ」、また別の助産師は「手を当てる」ことで問題が解決するというのですが、それらがみな「整体」になっています。
他の助産院のHPを読んで、矛盾を感じないのでしょうか?
こちらの記事の最後に書いたように、「ニセ科学は白黒つける」「ニセ科学は脅かす」「ニセ科学は願いをかなえる」「個人的体験と客観的事実」といったとらえ方が助産師の中にきちんと浸透しないと、近い将来、助産師への信頼はもうとりかえせないものになるのではないかと憂慮しています。
次回は、助産師以外の出産・育児の整体について考えてみようと思います。