災害時の分娩施設での対応を考える 12 <災害時にどのように情報を得るか>

東日本大震災の翌日2011年3月12日、少しずつ運転再開している列車情報を頼りに出勤しました。


どこも節電のために薄暗く、歩く人もまばらでしかも声も音もないような駅の中は、昨日までは世界でも有数のターミナル駅だったことが信じられないものでした。


電車の乗客も少なく、皆押し黙っていて重苦しい雰囲気でした。時折、地震速報の音が流れると、緊張がはしっていました。


そんな中で、女子高校生が「これから東海大地震も起きるんだって」と高揚した声でおしゃべりをしていました。
たしか、NHKの情報では、余震と東海大地震とは無関係であることも説明されていたことを思い出しました。



誰もが不安で変に気持ちが高まっているときですから、とりわけはしゃぎたい世代のおしゃべりは仕方がないところはあったのですが、デマになるような話はよくないと思い、声をかけました。


「こういう大きな災害のときには一言がデマになって広がり、人の不安が思わぬ結果になることもあるので、こういう場所でそういう話をしないほうがよいと思います。余震と東海大地震とは今のところ関係ないことも報道されていたはずです」と。


女子高生たちは素直に聞いてくださいました。
いつか、見知らぬおばさんに注意されたこのことがどこかで役にたってくれるかもしれません。


前置きが長くなってしまいましたが、当時、私はどのように情報を得て、どのようにその情報を取捨選択していたのだろうと思い返しています。


自分自身の安全はともかく、あの混乱の最中に職場で妊娠中から産後のお母さん方の不安にどのようにより正確な情報を伝えられるだろうかという点が、当時最も大事なことでした。


<感情を取り除いたデーターを優先する>


未曾有の大災害でしたから、当時の報道もまた混乱状態だったのではないかと思います。


その中で、NHKが比較的「感情」の部分を横において淡々と状況を伝えていたので、震災後はテレビからの情報はNHKだけにしました。
被害の状況だけでなく、どこまでインフラが復旧したか、いつまでにどの程度回復するのか、など「見通し」を伝えてくれていたことも重要でした。


「感情」を取り除いたデーターが何よりも、この「見通し」をたてるのには必要なことでした。


それでもNHKの報道も、原発事故後の冷却システム復旧までの間に、普段は冷静な解説委員が怒りや苛立ちを表す場面がありました。


それは心情的にはわかるのですが、せっかくデーター中心に客観的な報道を聞くことでこちらも心を落ち着かせていたので、少し動揺しました。


民放のようにたくさんの「評論家」はいらないので、データーとそれをどのように判断するかという視点だけをNHKに期待していたので。


これは人が健康面で危機に直面したときにも同じではないかと思います。


もちろん病気になったことへの悲嘆、怒りなどの感情を受け止めることも大事ですが、患者さんにとって後々有益な説明というのは、「このあと自分はどうなるのか。どうしたらよいのか」に役立つ「見通し」の部分ではないかと思います。


医療関係者が一緒になって感情に巻き込まれているだけでは、双方ともに泥沼に落ち込んでいく危険性もありますから。


<信頼の得られる情報を見極める>


NHKで得られる情報から災害の全体像を知り、仕事に必要な情報はネットを活用する必要がありましたが、そこはさらに玉石混淆の世界でした。


あの未曾有の大震災後、私は2009年ごろからニセ科学を考えるkikulogの議論に出会っていたことに何度も感謝しました。


kikulogの菊池誠氏は「科学と科学のようなもの」の中で以下のように書かれています。

5.明日は何処へ


擬似科学似非科学っていうのは、不勉強と思い込みの産物だ。単なる好き嫌いと科学的な手続きとの区別がまったくつけられていない。一見科学的なように見える本でも、逐一検討してみれば結局は好き嫌いのレベルでの思い込みだけで書かれていることがわかる。

助産師と代替療法、自然なお産あるいは極端な母乳育児礼賛が、まさに不勉強と思い込みそして好きか嫌いかの次元の話だったからです。


一見「科学的な論文」を根拠にしていても、その根底は好きか嫌いかであり、真の科学的な態度とは程遠いものが多いことに、ようやく私自身が気づいたのでした。


原子力発電所事故というのは、とても素人には太刀打ちのできない専門性の知識と理解が必要なものです。


でも基礎から勉強したってとうてい現実には役にたちませんから、なんとか信頼を得られる情報を判断していくしかありませんでした。


当時も今も私自身はtwitterをしていませんが、kikulogで存じ上げていた菊池誠氏、それからkikulogにコメントされていたうさぎ林檎さん(日本一のホメオタ!)からの情報やリツィートされている方の情報なら信頼できると判断して参考にさせていただいていました。


ポイントは二つ。
「気持ちの部分を切り分けて書かれた情報であること」
そして、
「間違った情報を流した場合には訂正をしていること」


放射性物質に対する医療現場で必要な情報も、そうして早めにキャッチすることができたのでした。





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