実際に哺乳瓶と人工乳首が必要な場合があるし、その恩恵で元気に育っている子どもたちが現にいるのに、それでもなお「弊害」が強調されるのはなぜなのでしょうか。
哺乳瓶の弊害として一般的に言われていることはおおよそ、3つに分けられるのではないかと思います。
<おっぱいと違って楽に飲める>
本当に「楽に」飲んでいるのでしょうか?
生まれた直後の新生児もよく見ていると、哺乳瓶をくわえさせても口先をすぼめてずっとくちゅくちゅしています。
5分ぐらいくちゅくちゅやっていて、ミルクが全然減らないこともあります。
そのうちに、ゲフッとして少しいきんだりもぞもぞしたあと、急に人工乳首の根元ぐらいまで深く巻き込んで、一気に中身がなくなるような「大きく口をあけ、大きな顎の動き」をしますが、あるだけ飲んでしまうわけでもなく2〜3mlとか5mlぐらいでやめて落ち着きます。
むしろミルクが出やすいようなタイプの哺乳瓶と乳首だと、ミルクを口の端からだらだらと出して飲み込もうとせずに、このお腹の動きを待つ間、調節しているような様子があります。
このあたりは「新生児にとって哺乳行動とは何か」のシリーズの胃結腸反射で書きました。
そして「移行便〜母乳便」に変わる生後3日頃を境に、哺乳瓶での飲み方も早くなり量も増えていきます。
それでも、お母さん達からよくある相談が、「ずっと吸っているのにミルクが全然減らない。乳首を変えた方がよいか」というものです。
生後2〜3ヶ月ごろでも、「20分ぐらい吸っているのにミルクをほとんど飲んでいない」ということがあります。
同じ人工乳首でも120mlぐらいを数分もかからないうちに飲んでいることもあるのに、長くくわえたまま全然減らないのです。
あれこれメーカーを変えてみても変わらないこともあります。
こういう時にもよくみると、赤ちゃんは浅めに人工乳首をくわえてくちゅくちゅしているだけのようです。
何かを待っているかのように。
乳児はただ「楽に飲める」ことで哺乳瓶と人工乳首に慣れてしまうわけではないのではなく、案外、母乳と同じような口の動きで調節しているのではないかと思います。
<ミルクの量がどんどん増えて、母乳が出なくなる>
「混合栄養でした」「ミルクでした」とお母さんたちが一言で表現する授乳のパターンですが、実際には百人いれば百通りのミルクの足し方があります。
授乳方法については個人的な体験談のレベルではいろいろと聞くのですが、全体像というものはよくわかっていないのではないでしょうか。
たしかに母乳のあとミルクを足しているうちに、だんだんとミルクの量が多くなってミルクだけになっていく場合もあります。
でも、「3ヶ月ごろまでは細々とおっぱいでほとんどがミルクだったのに、それ以降は母乳だけになった」という話もそれほど珍しくない頻度で耳にします。
「混合でした」「ミルクだけになりました」
その状況もほんとうに多岐にわたっているのですが、実際にはどのように育ててきたのかあまり詳細は明らかにされていません。
であるならば、「ミルクを足すと母乳が出なくなる」とは言い切れない段階ではないかと思います。
<歯並びや顎の発達に違いがある>
母乳を飲むには顎や口の周囲の筋肉などを使う必要があるのに対し、哺乳瓶は簡単に「吸う」だけなので顎の発達や歯並びに影響がある、という考え方です。
たとえば、こちらではミルクと母乳それぞれの口の動きに注目した話が書かれています。
哺乳ビンでミルクを飲み込んでいる赤ちゃんの口元を観察するとミルクを飲み込む直前に頬を大きく陥没させている様子がしばしば見られます。一度に沢山のミルクを飲みたい赤ちゃんはまるでストローを使う時みたいに口の中の陰圧を頼りにして短時間に大量のミルクを飲み込んでいることが想像できます。
「一度に沢山のミルクを飲みたい赤ちゃん」というのは大人の想像あるいは思い込みであって、よくみると最初に書いたように「飲まないような」口の動かし方もちゃんとしているわけです。
またくちゅくちゅの浅い吸い方をずっとしている時には、たとえ母乳であっても頬にえくぼができています。
歯科や矯正歯科のサイトには、周産期や小児科関連の本では書かれていないような哺乳瓶の弊害の話がいろいろと見つかります。
お母さんたちがそういう情報にたどりつけば不安になると思いますが、どのように検証されたものであるのか疑問があります。
でも、もし、「哺乳瓶は直接授乳に比べて顎や口周囲の筋肉を使わない」ことで発達への影響があるとすれば、むしろ「カップフィーディング」にほうがそれこそ舌も口の筋肉も新生児や乳児の本来の動かし方とは違う飲ませ方であり弊害があり得るという反論も成り立つのではないでしょうか。
さて、上記にあげた3点を考える時に、「初産と経産のちがい」という視点から見るとまた違った答えが出るのはないかと思います。
次回はそのあたりを書いてみようと思います。