境界線のあれこれ 39 <専門学校教育から大学教育へ>

1950(昭和25)年代頃は中学卒で准看護婦になることが看護資格を得るのに一般的だった時代から、高校進学率が上昇して高卒後3年の専門学校教育を受けて国家資格を持った看護師が増えていきました。


こうした資格と学歴の変化で、それまでの世代が置き換わっていく変化は避けようがないことなのかもしれません。


小学校卒の産婆が、看護婦資格をもった新制の助産婦に置き換えられたように。


そして私の世代もまた、専門学校での資格から大学教育を受けた看護師・助産師へ置き換えられていく時代を経験しつつあります。


<1980年前後の女性の進学状況>


前回紹介した「第8回 学歴社会における女性の教育」(橘木俊詔氏)の「進学先が大学から短大へ」の続きを紹介します。


ちょうど私が高校を卒業した少し後の頃の状況です。

日本が高度経済成長を経験して家計が豊かになると共に進学率は上昇した。1980(昭和55)年では、女性の大学が12.3%、短大が21.0%で合計33.3%、男性はそれぞれが39.3%と2%で41.3%であった。
特筆すべきことは、女性の高等教育進学率は高まったが、それは主として短大進学であったことだ。当時は「女性はせめてあるいはせいぜい短大まで」という標語がよく用いられた。

私が卒業した県立高校は県内でも大学進学率の高い進学校でしたが、同級生の女性で4年制の大学に行ったのは、上記の割合に近いぐらいの印象です。
しかも女子はたいだい教育学部で、将来は教師という選択しかありませんでした。


男子がどんどんと4年制の大学のさまざまな分野に進学していくのを横目に、たとえ成績が上位であっても女子は看護学校臨床検査技師養成校などの専門学校か、短大でした。


私も親に「女は大学に行く必要はない」と言われましたし、実際に大学に行って何をしたいのかも見当がつかず、教員には向いてなさそうだし・・・という程度の選択でした。


当時、同級生で女子に4年制の大学進学を許す親というのはどんなに進歩的な親なのだろうと、不思議に感じていたぐらいでした。


1970年代から80年代は、看護師になるには看護専門学校が主で、看護学部は2〜3校ある程度でした。短大の看護コースもほとんどなかったように思います。


<1980年代終りから90年代にかけて>


1980年代終わりの頃に、助産婦学校を受験しました。
この頃になると、看護学校は専門学校だけでなく大学や短大が増えていた印象があります。
ただ、まだ助産婦学校は4年制大学ではほとんどなく、短大の専攻科という形が増え始めた時期でした。


私は看護婦として数年働いた後に助産婦学校に進学を決めましたが、難民キャンプで働いた分あまり貯金がなかったので、進学先として選んだのは国立大学医学部付属助産婦学校でした。


国公立の専門学校であれば、1年間の授業料は20万もかからなかったと記憶しています。
しかも全寮制で、年間の寮費もとても安いものでした。
あとは1年間の生活費を何とかすれば大丈夫でした。


滑り止めに受けた私立の助産婦学校はこの授業料だけでも40万から90万近くで、しかも寮がないので家賃と生活費まで捻出することは当時の貯金では無理でした。
必死の受験勉強で、第一志望校に合格したときには本当にほっとしました。


このあたりの年から、看護・助産教育も短大からさらに4年制への変化が加速したのではないかと思います。
上記の橘木氏の記事の続きには以下のように書かれています。

現在では女性の進学率は50%に迫っている。一方で短大はそのウェイトを低下させたので、女性の進学率は50%に迫っている。背後には家計がますます豊かになったことに加えて、結婚後に夫に経済的に依存したくないという独立意識と、職業生活を全うしたいという女性の希望が高まったことがある。

こうした短大から4年制への時代の流れにあって、看護教育をそれまで3年だった専門学校教育をもう1年増やして大学制度にすることは、他分野のように短大2年から4年制にするよりは受け入れやすかったのではないかと思います。


しかもこちらの記事に書いたように、4年間で看護師だけでなく保健師の国家試験受験資格はもれなくつき、さらにくわえて助産師の受験資格まで得られるという特典がつくわけですから、一気に大学化が受け入れられたのかもしれません。



そして看護師の4年制大学教育を勧める理由として必ず目にするのが、「女性の半数が大学卒の世の中で、看護師の学歴が低く見られるのはよくない」というものです。


でもこの大卒の学歴を得るまでの経済力がある家庭にしか看護職になる機会がなくなってきたとしたら、ますます看護職は不足してしまうのではないかと心配です。


学歴ってなんでしょうか?
職業専門教育はなんでしょうか?
もう少しそのあたりを考えてみたいと思います。




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