看護基礎教育の大学化 2 <アメリカの医療と看護の現状>

前回の記事で書いたように、看護師が入院期間短縮を目的にしたクリニカルパスを作り出すようなアメリカの医療はどのような状況なのでしょうか?


2007年にマイケル・ムーア監督の映画「シッコ」が公開されました。
すぐに私は観に行きましたが、wikipediaの「日本の反響」にあるように、日本ではあまり話題にされなかった印象です。


wikipediaの説明には以下のように書かれています。

アメリカ合衆国はユニバーサルヘルスケア制度がない唯一の先進国である。
民間の医療保険に入れない人がおよそ5000万人もいる。
貧困層でなくても、過去のわずかな疾患を緻密に探査され保険への加入を拒否されたり、保険金の支払いを拒否される人は多い。

公的な健康保険制度がなく、民間の健康保険に入ることもできない多くの人がいる。
まるで私が体験した東南アジアの途上国と同じような医療体制であり、なぜアメリカから「統合医療」や「補完医療」という言葉で民間療法に脚光が浴びていたのかが、やっとつながったのでした。


決して先進医療国という一言では語れない、アメリカの一面に。


映画の中では、医療費が払えずにパジャマのまま病室から警備員に外へ出された高齢の女性や医療費が無料である隣のカナダへ行って治療を受ける人、あるいはwikipediaに書かれているような場面もありました。


こういうアメリカの医療の看護はどのような状況なのでしょうか?


<入院は急性期中心に>


1998年にアメリカの医療や看護の実情を視察した論文が公開されていました。

「アメリカにおける医療の変革に対する大学看護教育の現状と課題」

山田正実氏、加藤光寛氏、秋山智弥氏、小林ミチ子氏、小林優子
新潟県立看護短期大学

その要約に以下のように書かれています。

 看護事情について言えば、在院日数の短縮化で、入院は急性期にある患者に限られ、短時間に質の高い看護が要求される。病院では、コスト削減のために看護婦・看護士は解雇され、かわりに看護補助者が登用されるようになった。
また、在院日数の短縮化で在宅医療に関わる看護へのニーズが高まっている。


そのために看護教育の現場も大きく変化している様子が2ページ目の「3.実習の現状と課題」に書かれています。

(1)入院は急性期の患者だけ


在院日数の短縮化が一気に進んで、いまやアメリカは先進国のなかでもっとも病院在院日数が短い。たとえば、出産のための入院は、アメリカの多くの病院では24時間である。また、手術は日帰り手術が増え、入院してもごく短期間である。(中略)
在院日数の短縮化で、入院患者はみな急性期で不安定な患者である。勢い、短い時間に質の高い看護が要求される


そのために看護学実習も、この急性期ケアの技術の習得の確実さが要求されている様子が書かれています。

急性期ケア実習での習得技術は無菌操作やIVなどが中心になる。技術は、学内実習で一人でできる程度にまで習得してから臨床実習にでる
(p.3)
引用者注:IVとは静脈注射のこと

日本では、大学化の流れとともに看護学生の実習は「考える」プロセスを大事にし、こうした処置は見学のみにする方向に変化しました。


あるいは日本の看護では、疾患の回復期まで継続的に関わることを前提にした看護の方法論が築き上げられてきました。
たとえば産科なら分娩から少なくとも産褥数日は入院、そして1ヶ月健診までは関わることができることです。


ところがアメリカは、大学卒業後、この急性期の即戦力となる看護師を重点的に育成する方向に向いているようです。



そしてさらに大事なポントは、アメリカの医療費削減の方向は看護への無資格者の導入を広げ、高度な看護を展開する大学卒や大学院卒の専門看護職と無資格者の二極化が進んでいるということではないかと思います。


そのあたりを次回、考えてみようと思います。





「看護基礎教育の大学化」まとめはこちら