看護基礎教育の大学化 3 <看護職種の2極化と、無資格者の導入>

前回の記事に引き続いて、1990年代後半のアメリカの医療と看護教育を視察したことが書かれている「アメリカにおける医療の変革に対する大学看護教育の現状と課題」を参考に考えてみようと思います。


<無資格者の導入>


その論文では以下のように書かれています。

(1)医療への無資格者の導入


医療費の削減のために多くのRN(Registered Nurse:レジスタード・ナース、と登録看護婦:日本での正看護婦・看護士)が解雇され、そのかわりに無資格の看護補助者が登用されている。
資格をもたない看護補助者が患者のベッドサイドケアさえも担っている状況である。(p.126)


アメリカの看護師の階層>


「無資格」と言っても、短期間の教育を受けた「看護助手」も含まれるのではないかと思います。


「看護師の階層 アメリカとイギリスの看護師」という中にわかりやすい説明がありました。

[1.看護助手]補助看護師および医療助手教育機関は数ヶ月から1年以内。血圧測定、採血、筋肉注射(インスリン)ができる。
[2.有資格実務看護師]教育期間は2年間。
[3.登録看護師]教育期間は4年。医師の指示により患者への医療行為が可能である。
[4.修士(マスター)看護師]教育期間は[3.登録看護師」プラス2年間(合計6年間)。これには4種類あります。
(1)公衆衛生看護士
(2)病院管理士
(3)認証資格看護麻酔士
(4)看護実務士
[5.上級看護師}
(1)学士(バチェラー)。教育期間は「2.有資格実務看護師(2年)」プラス4年間(合計6年間)
(2)医師看護師。教育期間は「4.修士(マスター看護師)」プラス2年。救急医療を行う。

非常に複雑な看護師の階層がアメリカの医療現場にあることがわかります。


半年程度の教育で医療行為の一部が許されている看護助手から、果ては日本では医師にしか許されていない医療行為までできる看護師までが「看護師」として働いています。


その中で、日本で普通に「看護師」として思い浮かべる業務を担っているのが[3.登録看護師]だと思われますが、その人たちが解雇されて上級看護師とも言い換えられる看護師と無資格に近い看護助手によってケアがされているようです。


<「資格の一本化」とは正反対の現実>


こちらの記事で、戦後、GHQが日本の看護職が看護以外の下働きに時間をとられていることを憂い、看護婦の学歴を大学レベルにして看護婦の養成が間に合わない部分を、「急性かつ重傷の傷病者または褥婦に対する療養上の世話をしてはならない」看護助手的な乙種看護婦が支えることを目指したことを紹介しました。


ところがそのアメリカは医療の変化に伴って、日本の准看護師に相当する看護教育を受けた職種よりももっと素人に近い看護職種を内包する結果になったといえます。


日本の看護界では、看護師の地位を引き上げることや看護資格の一本化で看護のレベルを上げられるとして、看護教育の大学化を目指しています。


ところが、その先にあるのはさらなる看護師の階層化と、本来なら医療現場に一番必要な実践看護師層の空洞化を招いてしまうのではないかと思います。





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