「あなたは弓です」

「あなたは弓です」


これは「預言者」(カリール・ジブラン、至光社、1990年)の中に書かれている言葉です。



日本語訳は1990年に出版されたようですが、1980年代、私がまだ20代半ばの頃に東南アジアにある難民キャンプで働いていた時に出会ったアメリカ人の友人から、この英語版をもらいました。


哲学的な内容なので、私の英語力ではおぼつかないものでしたが、「あなたは弓です」は当時印象深く残りました。


本の扉に以下のような説明が書かれています。

魂の琴線に触れる散文詩である。人間の普遍的なテーマ −愛、結婚、自由、子ども、友情、家、苦しみ、宗教、仕事、別れ、死・・・について、私たちの心に深くよびかけ、教示にみちている。
(中略)
著者のジブランは、レバノンの詩人・哲学者・画家。五十余年まえに死んでいるが、この散文詩は三十数ヶ国語に訳され、いまでも世界の人々に愛読されている。人間の迷い、悩みにこたえる真実がこめられているためだろう。


「あなたは弓である」は、「子供について」の中に書かれています。

そこで、子どもを胸にかかえた女が言った。お話ください。子供のことを。
アルムスタファは言った。
あなたの子は、あなたの子ではありません。
自らを保つこと、それが生命の願望。そこから生まれた息子や娘、それがあなたの子なのです。
あなたを通ってやって来ますが、あなたからではなく、あなたと一緒にいますが、それでいてあなたのものではないのです。
子供に愛を注ぐがよい。でも考えは別です。
子供には子供の考えがあるからです。
あなたの家に子供の体を住まわせるがよい。でもその魂は別です。子供の魂は明日の家に住んでいて、あなたは夢のなかにでも、そこには立ち入れないのです。
子供のようになろうと努めるがよい。でも、子供をあなたのようにしようとしてはいけません。
なぜなら、生命は後へは戻らず、昨日と一緒に留まってもいません。
あなたは弓です。その弓から、子は生きた矢となって放たれていきます。
射手は無窮の道程にある的を見ながら、力強くあなたを引きしぼるのです。
かれの矢が速く遠くに飛んでいくために。
あの射手に引きしぼられるとは、何と有難いことではありませんか。
なぜなら、射手が、飛んでいく矢を愛しているなら、留まっている弓をも愛しているのですから。