出産・育児とリアリティショック 7 <「だっこがこんなに難しいなんて」>

動物番組で出産シーンがありますが、生まれた直後から自分で立ち上がって初乳を飲みに行く姿を見ると人間とは大違いですね。


こういう動物の出生直後のシーンを見るたびに、あるいは日々ヒトの新生児の世話をしていると「生理的早産」という言葉が思い浮かびます。


30年ほど前の看護学校の授業でも、そしてそれから数年後の助産婦学校の授業でも聞いた記憶があります。
ただ、講師の話の中で出てきたものの、教科書には書かれてはいなかったような気もします。


検索してみると、「人間は他の哺乳類と比べて1年ほど早産である」という「ポルトマンの生理的早産『説』」のようです。
リンク先から引用させていただくと、以下のような内容のようです。

人間の赤ン坊は、あまりにか弱すぎる。保護者の庇護がなければ、生命は3日ともたないであろう。妊娠期間が21ヶ月ほどで、外界に送り出される新生児の発達は望ましいレベルに達する。しかし、11ヶ月早く生まれてくるわれわれはただちに強力な保護を必要とする。このことをポルトマンは「生理的早産」と呼んだ。


出産後の多くのお母さん達は、おそらく他の動物と比較してわが子が「早産」で生まれてきたとは考えていないことでしょう。


ただ生理的早産とはとらえていなくても、どこからか予備知識として知っていることがあります。
私たちが教えていなくても、「首がすわっていない」ことをたいがいの方は知っていて、赤ちゃんを初めて抱くときに首を支えようとされます。


<「首がすわっていない」とは>



学生時代には「新生児は首がすわっていない」「生後3〜4ヶ月ごろに首がすわる」などは習いましたが、「なぜ首がすわっていないのか」という説明は習った記憶がありません。


学生時代の教科書を見直してみましたが、母親に「頭の支え方」を教えるくらいしか書かれていません。


恥ずかしながら、首がすわっていない理由を調べないままきてしまいました。
最近の周産期関係の本には書かれていました。
「周産期相談318 お母さんへの回答マニュアル」(東京医学社、2009年)では以下のような説明がありました。

屈筋と伸筋の優位性の変化
満期が近づくにつれ胎児は急速に大きくなるが、狭い子宮内でも苦痛なく過ごせるように屈筋優位な状態で成長し出生に至る。そのため、満期で出生した児では、上下肢ともに屈曲位が基本姿勢となる。
3〜4ヶ月頃になってくると定頸できるようになるが、頸がすわるためには頭を支えるための伸筋が強くならなければならない。

これをお母さんへの回答モデルでは、以下のような説明になっています。

胎児の時は狭い子宮の中で暮らさなければならないので、曲げる力(屈筋)が強くなっています。ですから、出生後もしばらくの間、赤ちゃんは手足を曲げた状態で過ごしています。生後3〜4ヶ月頃、体を伸ばす力(伸筋)が強くなってくると、頭を支えることができるようになり、頸もすわってきます。

なーるほど、屈筋と伸筋の発達のバランスということだったのですね。


ちなみに私は、胎児が産道を回旋しながら通過する時に頚部の組織に負担がかからないようにするためと勝手に思い込んでいました。


<抱き上げなければ世話もできない>


初産のお母さんあるいはお父さんにすると、新生児は小さいことよりもくにゃくにゃとして首がすわっていないことが怖いようです。


初めての抱っこはとても緊張されるようです。
「首がすわっていないのですよね」と頭ではわかっていても、実際にどう抱っこしたらよいか体が思うように動かないようです。
抱っこしたらそのまま固まってしまって、ベビーベッドに置くことも抱き方の向きを変えることもなかなかできず、手助けが必要な方がほとんどです。


二人目以降のお母さん、お父さんは、その点ほって置いても大丈夫ですね。
「久しぶり!こんなに小さかったっけ?」と小さいことに少し緊張されますが、手慣れた感じで抱っこもされます。


初めて首のすわっていない新生児を抱いたときのお母さん達の気持ちは、おそらく「生まれた赤ちゃんを世話をしている私」のイメージが壊れて、抱っこもできないことに自信を失いかけそうになるのかもしれません。





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