またまた動物の話ですが、生まれたばかりの動物でも自分でおっぱいを探して自分で吸いついていきます。ここが自分でできないと、生きて行けないことになります。
母親が子どもを受け入れなかったり、弱くて手助けが必要な時には人工飼育が必要になることがあるようですが、そういう条件がなければ基本的に動物の赤ちゃんは自分でおっぱいを探し吸いつくことは自らできるようですね。
これが人間の場合になるとなんと手のかかることだろうと、日々新生児とそのお母さんを見ていると思います。
まず、誰かに抱っこされておっぱいまで口を近づけてもらわなければなりません。
この授乳にふさわしい体勢をとることが、抱っこだけでも難しいヒトのお母さんにとってはさらに難易度の高いものです。
新生児も首がすわっていないので、普通に抱っこしているだけでは首がガクンと下へ向いてしまうので、目の前にある乳首をくわえられないのです。
ところがお母さんの目線ではそのくわえられない状況が見えないので、一生懸命近づけようとぎこちない抱き方で頑張るのですが、さらにあっちの方向へと遠ざかってしまいます。
いろいろとモデルを使ったり、お母さんの乳首と赤ちゃんの口の位置の関係が想像できるように説明するのですが、頭ではわかっても抱っこだけでも緊張して力が入っている体が思うようについていきません。
初日は、赤ちゃんにおっぱいをくわえさせるだけで初産のお母さんは冷や汗と大汗で格闘します。
「おっぱいをくわえさせるだけで、こんなに大変だったなんて」と驚かれます。
<「飲ませることがこんなに大変だったなんて」>
少しずつ抱っことくわえさせる姿勢のコツがつかめてきても、新生児はがんとして飲まないときは飲みません。
口を開けさせようとしても開けなかったり、啼いていても乳首を入れるとペッと吐き出して巻き込もうとしなかったり、少し吸っては大泣きして思うようには吸ってくれません。
これは母乳でも、哺乳瓶でも同じ。
哺乳瓶は決して「簡単に飲める」わけではなく母乳と同じような行動をしていることはこちらに書きました。
お母さんたちが少し抱っこになれて、赤ちゃんの世話を頑張ってみようと思う産後2〜3日目に、赤ちゃんに授乳をしようとしてもなかなか吸ってくれないことがあります。
そのあたりの理由については、移行便から母乳便への変化や胃結腸反射が関係しているのではないかということを以前書きました。
「赤ちゃんに授乳をするのがこんなに難しいとは思いませんでした」
「乳首に吸いつかせることがこんなに大変だとは思いませんでした」
イメージしていた授乳と現実の違いに愕然とし、また育てていけるかどうかという不安が高まる時期でもあります。
<なぜヒトの新生児は授乳に手がかかるのか>
出生直後の犬や猫はヒトとは違って、こちらに書かれているように母親が刺激して排泄をさせるようです。
子犬は生後20日頃まで自分で排泄(はいせつ=おしっこやうんちをするこ)することができません。通常は母犬が尿道口(にょうどうこう)や肛門(こうもん)をなめて刺激することで排泄が促がされます。
この点は、むしろヒトの新生児の方が出生直後から排泄の自律性が備わっていることになります。
生まれた直後から自力でうんちもおしっこもしますし、生後3日もすると「飲みながらうんち」をするようになります。
排泄には手がかかりません。
ただし、飲んだりおなかの動きを待ったりいきんだりといろいろなことをしているので、吸いつかなかったり時間がかかったりヒトの新生児の授乳は本当に手がかかります。
特に初産の赤ちゃんの場合は。
以前、こちらで書いたように、ヒトの新生児の「哺乳行動とは、授乳・消化・吸収・排泄の統合的な行動である」ということではないかと思います。
他の動物に比べて生理的早産ではあるけれど、この排泄までを自律して行うヒトの新生児の哺乳行動はかなり複雑なしくみではないかと思えてきます。
「吸わせることがこんなに難しいことだとは思わなかった」
ヒトだからこその悩みかもしれませんね。
お母さん達に、カンガルーなどの有袋類のように勝手に飲んで勝手に育ってくれると楽なのにねと話しています。
まぁ、カンガルーの母にはカンガルーの大変さもあるのでしょうが。
「出産・育児とリアリティショック」まとめはこちら。