記憶についてのあれこれ 21 <形成外科と美容整形>

韓国の医療ツーリズムが特に美容整形に力を入れていることはよく耳にしますが、産後調理院の記事を読むと、産後が美容整形術を受けるチャンスととらえていることに正直なところ戸惑いに近い気持ちになります。


ところで「美容整形」という言葉が日本の社会でもよく聞かれるようになったのはいつごろだったのでしょうか?


というのも1970年代終わりごろに看護学校に入学し、以降、医療の中で働いて来た私にとっては「整形」はあくまでも「整形外科」のことだったので、どうしてもこの「整形」という言葉が入っていることに違和感を感じてしまうのです。


「整形」ではなく「形成外科」でしょう?と。


<日本の形成外科の始まり>


日本形成外科学会の「一般の方々へ」の中で、「日本に形成外科が登場してから既に半世紀以上過ぎているにもかかわらず」と書かれています。


私の身内も半世紀前、まさに日本の形成外科のあけぼのの時代に、先天的な外表奇形を形成手術によって助けられました。まだ形成外科医自体数えるほどしかいなかったようです。


形成外科学では、その医学の領域を以下のように説明されています。

先天的あるいは後天的な身体外表の醜状変形に対して、機能はもとより形態解剖学的に正常にすることで、個人を社会的に適応させることを目的とする外科学の一分野。

そして近代の形成外科学の発達は、リハビリやPSTDなどの精神疾患と同じように「戦争に起因」するようです。


1980年代初め、私が看護師になって勤務した病院には、当時でもまだ数少ない形成外科医の先生がいらっしゃいました。重度熱傷の皮膚移植など、命は助かっても後遺症のために心身ともに絶望の淵に立たされていた患者さんを受け入れていました。


1980年代終わりごろに助産師になった頃には、口唇口蓋裂や多指症・合指症などの先天的な外表奇形に対応できる施設が増え、わずか10年ほどで形成外科の恩恵を受けられる人が増えたことをうれしく思ったのでした。


1980年代あたりからでしょうか。ぼちぼちと「美容整形」という言葉が聞かれ始めたのは。


<「美容整形」とは>


美容外科学を読むと、「美容外科は1978年に標榜科目に認可された」とあります。
半世紀前に形成外科ができ、その後十数年を経て美容外科が認可された経緯は「標榜科目に申請する際、形成外科の重鎮が日本医師会会長の武見太郎に『形成外科は美容は含まれない』旨の一筆を入れていたから」ということのようです。


上記の「形成外科」に対して、「美容形成」は以下のように説明されています。

人体の機能上の欠損や変形の矯正よりももっぱら美意識に基づく人体の見た目の改善を目指す臨床医学の一つで、独立した標榜科目である。医療全体がQOL重視の流れにあり、日本経済の成熟と医療市場の拡大により、近年注目されている医療分野である。

美容外科は呼称として整容外科、形成美容外科、美容整形外科とも言われる。これはまたこの分野の施術は、一般には整形手術、美容形成手術、美容整形手術などと言われることが多いが、これは法律的な根拠がない俗称であり、正しくは美容外科術と呼ぶべきものである。

なるほど、私の違和感もあながち見当はずれなものではないようです。


<形成外科と美容形成外科の境界線>


形成外科は保険適応、美容形成外科は自費診療ぐらいのおおざっぱな認識しかないのですが、そのどちらになるかにはグレーゾンがあるようです。


たとえば日本形成外科学会のHpの「疾患〜こんな病気を治します」では美容外科として、重瞼術、隆鼻術、フェイスリフト、豊胸術なども掲載されています。


「鼻が低くたって目の形だって気にしなければいいよ」と言っても、本人の悩みというのは増すばかりかもしれません。


私も小学生の頃に転んで少し大きな傷が膝にできたのですが、それを見て「きれいに治しておかないと(形成しないと)、お嫁に行けないよ」と言う人たちがいて閉口したものです。
その後、何のことはなく、体格が大きくなるにつれて相対的に傷は小さくなり目立たなくなりましたが。


でも顔や手足など人目に触れる場所に気になる部分があれば、なんだかいつも誰かにそれを見られているような恐怖心がでるものです。
実際に、世の中というのは無神経な視線や言葉にあふれていますから。


生活の質(QOL、Quality of Life)というのは、時代によっても、経済状態によっても影響を受けますから、形成外科と美容形成外科というのは「それは医療か、医療ではないのか」という境がとてもデリケートに問われる科かもしれません。


まして、2000年代ごろから耳にするようになった「就職に有利だから」といった理由は、その時代に直面している世代にしかわからない葛藤もあるでしょうから難しいですね。


韓国の美容整形ブームはどのような思いがあるのでしょうか。






「記憶についてのあれこれ」まとめはこちら