行間を読む 24 <産後院と漢方、そして医療観光>

1980年代初めの頃に私が新卒看護師として初めて就職した病院は、国公立病院の中でも少し特殊な病院でした。


先進的な治療を積極的に取り入れるために、当時はまだ再生利用が主流だった時代に、医療機材や医療用品もデイスポ(使い捨て)製品が潤沢に使われている施設でした。


「他の病院に転職する時には、親方日の丸病院の意識のままではダメ。」と先輩からよく言われました。


その病院の組織全体としては、情報伝達や患者さんへの対応などかなりスタッフ教育が徹底されている印象で、20代の私の記憶でしかないのですが「お役所仕事」とか杜撰な組織だったとは思えませんが、「赤字を気にしない」という点は確かにあったとその後民間病院に移って感じました。


1990年代に入ると、国公立だけでなく民間の病院も含めて日本の医療は「患者サービス」という方向へ大きく動きました。


1960年代に国民全員が医療にアクセスできるようになり、80年代までに全国の医療体制が充実され、さらに救命救急への対応もある程度充実しました。
経済成長で国民の生活が豊かになり、安全へのシステムが整えば次は快適性としてサービスへの視点が出始めるのは当然の流れかもしれません。


サービスを充実させるためには財源が必要になるわけで、90年代以降は医療の中でどのように利潤を得るかということも医療従事者が意識する必要が出てきました。


メリット・デメリットはそれぞれあると思います。
ただ、2000年代からの医療の流れをみていると、「成長戦略としての医療」(福岡市医師会医療情報室)で「市場原理が医療を滅ぼす」(李啓充氏、医学書院、2004年)の内容が紹介されていますが、最近それをひしひしと感じるのです。


<医療への市場原理の導入>


上記の中で「医療への市場原理の導入の問題点」として4点があげられています。

1)財力による医療へのアクセス格差
市場原理の下では、弱者(高齢者、低所得者)が排除され、医療保険を購入する財力のないものは「無保険者」となり、医療へのアクセスが閉ざされてしまう。

2)医療費・保険料負担の逆進性
有病者は保険料が高い

幸いにして、韓国では1997年の新自由主義経済へ方向変換せざるを得ない時にも4大保険は維持されましたから、民間の医療保険だけになったり、すぐに無保険者になることはないと思います。


ただ、次の点は韓国でもそれなりに問題が出ている可能性があります。

3)バンパイア効果
サービスの質を下げマージンを追求する悪質な企業がシェアを獲得した場合、それまで「サービスの質を追求」していた企業も生き残りを図るため、悪質な企業の経営手法に追従せざるを得ない状況に追い込まれる。

医療の場合、「サービスの質」以前に「医療安全の質」を下げる事になるのではないかと思います。


漢方医が多い韓国>


ぽむぽむさんの見学記の中に、漢方(韓方)医のことが書かれた記事があります。
こちらでは、漢方医院で「産後風」についてや「整形後にここでデトックスをすればすぐに傷が目立たなくなる」という説明があったり、実際に漢方医の診察」を受けた様子が書かれています。


漢方も効果が検証されれば通常医療に組み込まれますが、通常医療との大きな差は解剖を基礎としているかというところがあるように私には思えます。


それはさておき、2008年の厚生白書の「各国にみる社会保障施策の概要と最近の動向(韓国)に韓国の医療施設と医療従事者数が書かれています。

(2)医療施設
一次機関には医院(25,412カ所)および病院(794カ所)、2次機関には総合病院(290カ所)、3次機関には総合専門療養機関(42カ所)があり、原則的に下位機関から紹介を受けて上位機関にいく形式になっている。
その他漢方病院(146カ所)漢方医院(9,765カ所)などがある(2005年末)。下位機関での診療依頼がない場合には、原則的に医療保険が適用されないようになっている。

そして漢方医師は正式な医療従事者として認められいるようで、医師が85,284人に対して漢方医師は15,200人もいるようです。


国民が漢方(韓方)に親しみがあるという一面があるのかもしれませんが、医療経済的には国民の医療へのフリーアクセスを制限し、医療費を抑制することが一番の理由ではないかと思います。


イギリスで言えば、専門医への受診を制限するために家庭医にまずかかるシステムがあるように、韓国では通常医療の医師にかかることを抑制するために漢方医が組み込まれているのではないかと推測します。


<医療観光がその国に与える影響>


医療費を抑制するために国民には通常医療へのアクセスを制限し、富裕層や海外から医療観光で来る人には自由診療で医療の質・サービスともに充実した医療を提供する体制を作った場合、どんなことが起こるのでしょうか。


医療従事者なら、施設もきれいで給与や待遇もよい病院に行きたいと思う人も増える事でしょう。
もちろん、国内の待遇が改善されればこちらに書いたような医療従事者の海外流出を防ぐことができることでしょう。


せっかくその国の保健医療を担うために教育を受けたのですから。


でも医療従事者の海外流出を防げても、海外から医療を受ける人にそのマンパワーが向けられるのであれば、どこかで国民への医療が削られることにもなることでしょう。


医療に収益確保やビジネスの視点も必要ではありますが、社会で大事にしたいものは何なのかを見失わないように、イメージだけでのすばらしい医療やケアを描かないようにしたいものです。


ぽむぽむさんの見学記のおかげで、またいろいろと考える機会になりました。ぽむぽむさん、ありがとうございます。
ということで、まとまりがないものでしたが一旦韓国の産後院についての記事は終わりです。






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