思い込みと妄想 34 <壮大な社会実験と現実の医療>

医療サイトのm3com.に「カンボジアに日本式病院 医療の海外展開」というニュースがありました。

日本医療の海外展開の一環として日本政府が設立を支援してきたカンボジアの病院が首都プノンペンに完成し、20日フン・セン首相らが出席して開院式典が行われた。


サンライズジャパン病院」で、北原国際病院(東京都八王子市)などが設立。設備だけでなく、医療技術などソフト面の移転も含めた「日本式の病院をまるごと輸出する」(北原国際病院)試みとしている。


全50床で、救命救急センターなどを設置。日本人医師や日本で研修を受けたカンボジア人スタッフらが常駐し、健康診断などを含む日本の水準の医療サービスを提供するという。


式典であいさつしたフン・セン首相は「外国投資家や旅行者の信頼獲得、ひいてはカンボジアへの投資増加につながる」と病院への期待を表明。小田原潔(おだわら・きよし)外務政務官は「日本式医療サービスがカンボジア国民の健康に寄与し、生活を豊かにすることを確信している」との安倍晋三首相のメッセージを代読した。
2016年9月21日 共同通信社

政府開発援助(ODA)が関係した話かと思いましたが、そうであれば、1980年代から90年代に東南アジアの首都に「日本の最新の医療機器を備えた近代的な病院」を建設して失敗してきた経験が生かされていない、変な話だなあという印象です。


当時、日本でもまだ最新の医療機器だった超音波診断装置(エコー)などが、無償援助として途上国へと送られていました。
結局は、頻繁な停電や故障のメインテナンスに対応できず、相手国からも不評だったようです。


なにより、その援助でできた近代的な病院周辺に住む、大半の健康保険を持たない貧困層の人たちには、あまり恩恵のない箱物援助になってしまいました。


どんなに「日本の医療はすばらしい」と志高く途上国の医療を変えようと飛び込んでも、医療とはその国の経済状況や文化の変化によってつくり出されていく現実に、自分たちの考え方を変えなければいけなかったのだとうなだれて帰国するのが、当時、海外医療援助に関心があった人たちの失敗学ともいえるのではないかと思います。


このニュースを読んで、「日本式医療」というのは国民皆保険制度を根幹とした医療なのかと思いましたが、それにしてはフン・セン首相の「外国投資家や旅行者の信頼獲得」とは少しかみ合わない変な内容だなと思っていたら、8月6日の「カンブリア宮殿」でこの北原国際病院が紹介されていたニュース記事がありました。


少し長いのですが、全文紹介します。

カンブリア宮殿「こんな病院見たことない!ニッポンの医療を変える男」
2016年8月07日(金)配信 Live on TV


医療もサービスを競う時代・・・


江戸川区にある江戸川病院は、患者の緊張を和らげるためギャラリーのようなポップな作りとなっている。加藤隆弘院長は10年前からこの改革を進めた。一方、愛媛大学病院では病院食の改革が起きている。会席料理のような特別メニューがプラス千円で提供されており大好評となっている。


北原国際病院は脳神経外科が中心の病院でホテルのような高級な作りとなっている。MRIなど精密検査もその日のうちにでき、即日結果を知ることができる。検査を受けた川幡千代子さんはその日のうちに結果がわかるのはありがたいと話した。また、薬の副作用などに対しすぐに対応するため薬は病院で医師の前で飲むことになっている。これら医療法人社団KNIは北原クリニックなど八王子に4つの施設を持ちグループ経営している。


北原国際病院では24時間救急外来を受け付けていて、断らないことをモットーとしている。患者のたらい回しが問題となるなかでこの病院の受け入れ率は96%で、入り口から処置室やX線MRI室などは効率的に配置され、医療行為以外の仕事は手が空いたスタッフで分担。入院患者の園田留美子さんは迅速な対応により後遺症も殆ど無く回復した。
北原茂実氏は時間があれば現場に医師として患者の目線に立って診察している。同氏は大学病院の勤務医時代に劇症肝炎を発症し、自らが勤務する病院に運ばれた。医師の事務的な接し方や病院の内装に居心地の悪さを覚え、95年に現在の北原国際病院を設立した。北原茂実氏は薄暗い待合室から明るい診察室に入った患者は医療者との距離を近くに感じ、十分な満足感を味わえることができると語った。また具合の悪い来院患者がいないか目を見張る相談専用の看護師を配置するなど、北原国際病院は患者目線に立った病院作りとなっている。北原氏は人の痛みがわかるとか、本当の意味で癒されることがわからなければ医療はできないとコメント。




医療再生の処方箋 北原病院グループ北原茂実


北原病院グループの北原茂実氏は病院設計そのものを自分でこなし、最初の頃は殆ど全て個人保証だったとコメント。また日本では国民皆保険により病院は利益があがらず、料金やサービスなど医療にも幅広い選択肢を設けるべきだとの考えを抱いている。自薯では国民皆保険の見直しや病院の株式会社化などを提唱していて、医療は利益を生む産業足りえるべきと語った。これは好き嫌いとかいう問題ではなく、現実社会をどうするかという問題と指摘


ここまで読むと、「日本式医療」とは何を指すのかよくわからなくなりました。
まだ続きます。

新しい病院のカタチ


東京・八王子は都心から電車で1時間足らずのベッドタウンだが、中心部を離れれば風光明媚。そんな環境下に北原リハビリテーション病院はあり、地域の特色を生かした治療が行われている。鬱病を抱える患者は畑を耕したり、羊を世話するなど患者同士で協力して農作業に勤しんでいる。こうした取り組みは農業リハビリと呼ばれ、他ならぬ患者自身も効果を感じている。作業療法士の高橋章郎さんは見守ることに徹している。収穫した野菜は価格を決めて病院内で販売。北原茂実氏はセルフメデイケーションという患者自身が治していくという手法は少子高齢化の中での治療法の1つではと語った。


東京・八王子にある北原リハビリテーション病院は障害などで体が不自由になった患者にリハビリを施す病院で、小峰育子さんの父親である壮助さんは脳梗塞で麻痺が残ったがリハビリを通じて回復の兆しが見られている。育子さんは父親の世話の傍ら、家族ボランティアとして院内で清掃やレクリエーションのヘルプなどを行っている。患者の家族が病院内で一定時間働くシステムで、この病院では100人以上が登録。1時間労働で1ポイント、家で雑巾5枚、巾着2枚を縫ってもポイントを獲得できる。獲得したポイントで病室の雑費を抑制でき、更に育子さんは他の患者や家族とも関わりを持てるとコメント。永見旨子さんは御年81歳ながら家族ボランティアとして働いて、主に患者の話に耳を傾けている。入院していたご主人が他界し、永見さん自身も病気を患っているが、ボランティアを通じて生きがいを感じている。


北原リハビリテーション病院では患者家族がボランティアとして院内清掃や患者の話に耳を傾けていて、北原茂実氏は患者も家族も病院の中に取り込んでしまう発想とコメント。医療知識を培うことや病院に対する信頼関係が構築でき、北原氏は医療とは人がいかによく生きて死ねるかを統括する統合生活産業と考えているとコメント。農林水産やITインフラ、葬式に至るまでが医療の仕事で、町おこしにもつながると指摘した。


「日本式医療」ではなくて、読めば読むほど一個人の理想郷建設のための壮大な社会実験のような印象です。
どうしてそれをカンボジアに実現させようと思ったのでしょうか。

カンボジアから始まる壮大計画


カンボジアは近年、経済成長が著しい注目の国だが、北原茂実氏は医療の質は低いと指摘。そこで日本の医療ノウハウを新興国に供給しようと足繁く通っている。現地で評判な泌尿器科専門クリニックでは設備は整っているように見受けられるが使用済みの器具が散乱し、執刀医は手術の映像を取らせて自慢気に見せている。北原氏は現地の医療関係者を来日させて北原病院グループで研修させようと決断。今年5月に23人の研修生が訪れ、北原氏は歓迎会を開催。カンボジア人医師のロン・ソールさんは働いた病院をやめてまで研修に参加し、日本の最先端の医療を吸収し、後進の育成にも努めたいとコメント。病院では脳外科手術の研修に励み、髪の毛よりも細い糸を顕微鏡を使って血管を縫合する技術を学んだ夜には自室で脳外科の医学書を使って復習した。病院では看護師や理学療法士なども研修していて、今年中に十数人を新たに受け入れる予定。一方で、北原氏は再びカンボジアプノンペンを訪問した。


北原病院グループの北原茂実氏はカンボジアプノンペンにある建設現場を訪れた。同グループは日揮産業革新機構とともに病院を設立・運営を目指していて、2016年春に完成予定。日本で研修を受けたカンボジア人スタッフが中心となり、医療機器や設備等はオールジャパンとする予定。北原氏はニッポンの医療を新たな輸出産業にするという構想を抱いている。


北原茂実氏は日本の医療を新たな輸出産業にしたいと考えているが、現地には現地のやり方があると語った。村上氏は医療は様々な産業の複合体として輸出できるのではという考えで、北原氏はカンボジアとった(原文のまま)輸出先にとっても日本にとってもメリットがあると説明。自らが病院を設立した20年前に大学や医師会から異端児などと疎まれてきたが、北原氏は最近では講演を頼まれるなど変化を感じているとコメント。

村上龍の編集後記


収録を終えた村上龍は「国民皆保険全廃、病院の株式化など、北原先生の改革案は、過激に映る。だが「選択肢」として論議すべきことばかりだ。これまで番組に登場した、経営が比較的安定している病院ほど、危機感が強い。医療が崩壊したときの国家的混乱は想像を絶する。わたしは、北原先生の「檄」に耳を傾けたいと思う」と振り返った。

そうか、「ニッポンの医療」というのは、国民皆保険全廃・病院の株式化を見据えた実験的なものを指すのですね。


でも、お金がない人は院内の清掃をするとかは嫌だな。
院内の清掃も専門的な知識を必要とする大事なチーム医療の一つで、その人件費を削ればきっとどこかに問題が噴出することでしょう。


ところで、あのポル・ポトの社会実験の犠牲になったカンボジアの人たちの記憶はまだまだ生々しいのではないかと思います。
こういうやり方をどう受け止めることでしょうか。




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