行間を読む 26 <保健師と助産師のゆくえ>

看護職の国家資格にはまず看護師があり、そのあと保健師助産師それぞれの国家資格があります。


前回の記事で、紹介した2009(平成21)年の保健師中央会議の資料「3 地区活動のあり方とその推進体制について考える」は偶然みつけたものですが、1948年に保健婦助産婦看護婦法が制定されて以降、保健師助産師の考え方や活動はこんなにも差がでてしまったのかと愕然としました。
(直接リンクできないので上記名で検索してみてください)



保健師さんたちの公衆衛生看護の基盤となる科学的合理的な思考がわかる資料です。
対して、助産師はどうしてこうした思考よりも情緒的感情的な思考で動きやすいのだろうと考えさせられました。


<publicの視点>


上記資料p.15の「使命を果たすための保健師らしい活動とは」に、以下のように書かれています。

公衆衛生=公衆(public=みんな)の生命・生活を守る


病気や障害から人を見るのではなく、長年の生活スタイル、生活行動、傍らにいる人々との関係性、情緒的なやり取りを経てきた人が抱えた病、障害とみる。
だから生活環境抜きに公衆衛生は語れない。

以前「publicという概念」を書きましたが、公衆(public)とは「誰でも」であり、また「全体」とも言換えられるのではないかと思います。


これが日本の助産師の世界に最もかけている視点ではないかと思います。


もちろん、個々の助産師は社会全体の母子保健の問題にも目を向けて公衆衛生を意識しながら働いている人がほとんどだと思います。


ただ、助産師の世界となるとなぜか「全ての妊産婦さんと新生児」を対象にする周産期看護のスペシャリストではなく、「助産師は正常なお産で単独で介助できる」ことを死守する為ためあえて院内助産という矛盾を作り出したり、産師法を復活させようとします。


あるいは全国の分娩施設には助産師のいない施設も多くあるのに、そういう施設も含めた周産期看護を良くするための全体への視点もないと思います。


目の前の個々の事例に対応することはもちろん大事ですが、それが全体の中ではどういう意味を持つ事実なのか、常に全体を意識しながら考えることは「科学的な思考」に必要なことではないでしょうか。


助産師の世界はそれが足りないから、「(助産師による)いいお産」「(助産師による)自然なお産」あるいは「完全母乳」といった言葉に流されやすいのだと思います。



保健師さん向けの資料を読んで「科学的合理的な思考」だと感じたのは、まずこの全体=publicの視点があるからだと思いました。


<真の回復・解決とは何か>


妊娠・出産・育児の過程では親の思う通りにはならないことがたくさんあります。
それは親の努力や医療者の関わりに関係なく、たまたま条件が合わずにある一定数は起こるという「全体」から見た視点が大事です。


「自然なお産」をイメージしていても医療介入が必要なお産はありますし、母乳だけで育てたいとずっとすわせ続けても赤ちゃんがミルクを必要とすることもあります。


この場合の助産師にとっての真の解決とは何でしょうか?


冒頭の資料の「保健師活動に許された使命は?」(p.9)には以下のように書かれています。

健康水準の向上には、健康格差を縮める努力があってこそ
健康が阻害されているのに支援が行き届かない、SOSを発信できない住民への働きかけが乏しければ、見かけの健康水準は向上しても、健康格差を拡大させる結果となり、地域全体への利益には至らない場合もある

見せかけのアメニティ(快適性)ではなく、妊娠・出産を機に問題を抱えたままであったり、継続したサポートが必要な人を見逃さない。


それが周産期看護としての、真の社会全体への解決ではないかと思います。


<周産期看護のサービスマネージャーの存在がない>


保健師さんの活動内容も範囲も時代とともにさらなる専門性が求められるようになり、前回の記事で紹介した「エリアマネージャーとサービスマネージャー」という形に変化しつつあるようです。


助産師の場合ならどうでしょうか。
保健師さんの地区担当(エリアマネージャー)に対するのは、分娩施設での臨床実践をしている助産師や新生児訪問指導員などにあたることでしょう。


ところが、臨床助産師は個々の問題の対応に追われてなかなか社会全体の問題へとつなげられません。


以前から何度も書いているのですが、せめて「周産期看護研究センター」のような中立な機関があって、そこに問題提起をし、全体調査・研究へと進めていければよいのですが、臨床の私たちの声を拾ってケアの標準化をしてくれる組織もありません。


それにしても、保健師さんたちは保健師中央会議というまとまった場があるのですね。
ほんとうにうらやましい限りです。
助産師の場合は、助産師の方向性をどこでどのような人たちによって決定し進められているのかいまひとつよくわからないのですから。





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