前回の記事で考えたことから、医療を基本とした産後ケアとは「妊娠・出産に関連した健康問題を、私的な領域にとどまらせることなく社会全体で継続して支援する」ものではないかと思います。
1950年代に「産後の休養の重要性」を社会に広げることから始まり、1960〜70年代は「医療格差をなくし、妊娠中毒症などの異常を予防することや無介助分娩をなくすことで母子の安全な出産 」を達成するためのさまざまな活動、そして1961年から始まった新生児訪問により、日本の産後ケアの基礎が築かれたといえるのかもしれません。
1990年代に入ると、産後うつの早期発見、母親と赤ちゃんを孤立させない為の取り組みも始まりました。
それは不安をあおってニーズを作り出すものとは対極の、ニーズを見極める観察によって問題を社会化し、自分だけの問題だと悩んでいた人たちに社会全体で見守っているという希望を与えるものであったと思います。
こちらの記事で紹介した新生児訪問の評価についての研究にあるように、スタッフの適性や考え方・態度などでお母さんたちに不快な思いをさせていることも事実ですが、この問題は切り分けて考えたほうがよいと思います。
大半のお母さんたちは問題なく産後を経過するので、あまり恩恵を感じることもないかもしれませんが、社会のシステムが地道に築かれてきたことはどこか頭の片隅にいれていただけるとよいと思います。
こうして築かれてきた日本の産後ケアですが、次の時代にはどんなことが必要になるのでしょうか?
<現在の「継続的な産後ケア」に不足しているもの>
私の勤務している自治体では、最近、分娩施設から保健センターへ「要支援」と思われるお母さんと赤ちゃんの連絡用紙ができました。
たとえば産後の手伝いもなく孤立しそうであったり、お母さん赤ちゃんのどちらかに健康の問題があって退院後の早期訪問や支援が必要そうな方を、ご本人の了承を得て保健センターに情報を提供するものです。
あるいは、虐待が予想される場合などはご本人の了承なしに情報提供をすることもあります。
今までも、気になる方は分娩施設から保健センターへ連絡していたことはありますが、こうして公式に継続的なケアへの手続きが行われるようになったのも大きな前進だと思います。
ただ情報提供する分娩施設側としては、どの程度の問題を保健センターに伝えるかという判断は難しいものです。
現在の保健センターのキャパシティーを考えると、産後うつの可能性や虐待、あるいはDVなどの可能性といった心身の危険性がある人ぐらいしか、実際には情報提供できないかなと思います。
たとえば傷が痛かったり貧血がひどく赤ちゃんの世話も青色吐息の方や、排泄トラブルなど出産を機に日常生活が一変した方が、退院後に地域で見守られる体制があれば・・・と思います。
家族でなんとかしてね、産褥支援ヘルパーがありますよぐらいしか対応できない現状では、まだまだ「私的領域」の問題になったままなのです。
<周産期ケアマネージャーのような存在を>
私も保健センターの仕組みを熟知しているわけではないのですが、保健センターの中でこうした周産期の問題に対応する専門スタッフはいないのではないかと思います。
自治体の新生児訪問をしていた頃は、地区担当保健師さんが母子保健担当を兼任されていました。
「3 地区活動のあり方と推進体制を考える」という平成21年度保健師中央会議の資料が公開されていました。
直接リンクできないので、上記名で検索してください。
介護保険が始まったころから、保健師もそれまでの地区担当(エリアマネージャー)だけでなくサービスマネージャーの業務が必要とされ、現場ではいろいろな悩みがあるようです。
ただ、その資料の「エリアマネージャーとサービスマネージャー」(p.14)にあるような視点を持った保健師さんがいらっしゃるのであれば、今まで妊娠中から産後の健康や経済問題も個人の問題のままになっていたことも、社会で考える方向へと動くのではないかと思います。
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周産期ケアマネージャーのような存在が保健センターにできるとよいと思います。