行間を読む 27 <人を無力にさせるもの>

「真実は権威とか権力から遠いところにあるのかもしれない」と自分で書きながら、「権力」とか「権威」ってなんだろうと記事をアップしてからもう少し考えてみました。


言葉の持つ力は本当に怖いものがありますね。
いち助産師の立場で個人的な考えを書いているに過ぎなくても、「助産師が書いていた」ということでなにかイメージが広がる危険性もあるわけです。
そうなると自分の中にもいつでも権力や権威になるものが潜んでいるということかもしれません。


こんなマイナーなブログでも、文章を書いて公開する事はそういうことに常に気をつけなければいけないことでもあるとあらためて思います。


「権力」や「権威」を言換えると何になるのだろうと考えました。
それは「人を無力にさせるもの」かもしれないと思います。いえ、ほんの思いつきです。


<お互いに監視しあう>


20代初めの頃に「権力の象徴」という言葉を知ってから、何が権力なのだろうと気になりだしました。


国家権力とか、資産家や大企業の持つ権力もあると思います。
東南アジアで暮らした国は、独裁軍事政権、独裁開発政権と言われた国ですから、さらに軍事的な権力が国の隅々まで行き渡っていました。


観光地以外は、地方の村などに外国人どころかその国のよその地域の人が入る事まで監視されていました。
道沿いには何カ所も監視所があって、兵士が行き行く人をチェックしています。
また住民もその監視役をしなければならず、誰かよそ者が来ると直ちに軍や警察に通報しなければならなりません。
いつの間にか「私」がその村にいることが、どこかで監視され通報されていることに驚いた事はいく度となくありました。


お互いに監視しあわなければ、その地で生きて行けない。
それも人を無力にさせる「権力」であり、今も世界中のいたるところある現実だと思います。


<事実とは違うイメージを生み出す>


何のためにお互いを監視させて人を無力にさせる力が動くのかというと、事実から目をそらせる為に必要なのかもしれません。


その渦中で暮らしている側の人にも、また外部の人たちへも。


初めてその国に赴任する前の私は、「困っている人たちをを助けなければ」という単純な善意しかありませんでした。


その国には「反政府ゲリラがいてテロや軍との衝突が頻繁に起こるので、そういう地域には近づいてはいけない」という情報やニュースは日本にいてもよく耳にしました。
実際に、現地でも住民は「反政府ゲリラ」については、「困った存在」であるかのように無関心を装っている印象でした。


最初の頃は反政府ゲリラというのは凶悪で、そういう存在がいなくなればここの住民に平和な生活が訪れるのかと思っていました。
日本で知るニュースからは、そのくらいしか想像ができないものです。


その数年後、私は偶然、その国の中でも反政府ゲリラが多い地域に住む事になりました。
しかも、その国ではさらに「危険なイスラム教徒とその反政府ゲリラが多い」と怖れられていた地域でした。


そこに暮らしてみて、「危険な反政府ゲリラとそれを支持する住民」と報道されていたイメージとは全く違う生活があることを知りました。


むしろ、政府軍のゲリラ掃討作戦によって膨大な数の国内難民が発生していること、それらの人は自分の土地や作物を守ろうとすれば反政府的な住民とみなされていました。
そうして土地や資源は国内の資産家のものになり、海外企業によって開発されていきました。


その国の他の地域や日本でも、ここで起きた「テロ」は時々報道されていたのですが、こうした国内難民やゲリラ掃討作戦の本当の目的を伝えようとするジャーナリストはごくわずかでした。


「自分たちの状況をなんとかして他の人に伝えて欲しい」
何度も何度も言われました。
事実が伝わらないどころか事実とは違うイメージが報道によって作られていました。


そういう状況は本当に人を無力にさせていくものです。


<事実とは違う思い込みで権威になる人たち>


テレビや書籍で、医師のいない出産の場である助産所や自宅分娩がすばらしいかのように賛美されて広がるのをみると、あの「自分たちの状況を他の人に伝えて欲しい」という気持ちが痛いほど理解できるようになりました。


なぜ、珍しくない頻度でおきる出産時の異常という事実から目をそらせるようなことばかり伝えようとするのでしょうか。


それは一部の助産師を含め、出産の事実のほんの一部を知っただけで、理想の世界があると思い込んだ人たちを出産の権威にしてしまったからではないかと思います。


そしてそういう人たちは、自分の発言の過ちは認めない。
妄想にはリスクマネージメントという言葉は生まれないように。


時代は変化し医療現場はそれに対応しているのに、それを認めない。
認めてしまえば自分の権威を失うことになるから。


他の人を無力にさせることで得た権力や権威というのは虚像であることに気づかないのかもしれません。





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