母乳育児という言葉を問い直す 4 <母乳育児のための「補完食」>

「離乳食(補完食)」という記述を目にするようになって、「離乳食=補完食」で呼び方が変わっただけなのかと最初は受け取っていました。


ところが2007年に厚生労働省から出された「授乳・離乳の支援ガイド」にも「補完食」という言葉は使われていません。
「母乳育児」と密接に関わりがある言葉だと気になりだしたのが数年前でした。


この言葉が使われ始めたのは、2003年のWHOによる「乳幼児の栄養に関する世界的な運動戦略」からのようです。


「補完食の定義」が「母乳育児支援スタンダード」(編集NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会、2007年)に以下のように書かれています。

世界保健機構(WHO)はいわゆる「離乳食(weaning foods)」という表現に対して、「補完食(complementary foods)」という表現を提唱している。これは母乳育児期間に児が母乳以外に摂取する栄養は母乳と置き換えられるものではなく、補助・補完するものであるとの考え方に基づいている。

Guiding Principles for Complementary feeding of the Breastfed Childによれば、補完食とは、「母乳だけでは乳児の栄養所要量が満たされなくなり、母乳をのませつつ、母乳以外の固形物や液体によっても栄養をとることが必要になり始める過程」と定義されている。対象となる年齢は「一般的には生後6ヶ月から2歳ぐらいまで」とされている。


生後すぐの時期から「母乳以外の液体(ミルク)」と必要とする混合栄養の赤ちゃんにとっては、ミルクは補完食ということになるのでしょうか。


これを読む限り「母乳だけで育てている母子」が対象という、かなり限定的な状況に使われる言葉のようです。
そして「母乳育児支援ガイド」では、WHOによる「母乳だけ」の方向性が根拠として使われています。

 WHOは2000年には「母乳だけで児を育てる期間は生後4−6ヶ月間」としたが、翌年生後6ヶ月に改めた。その根拠は、以下の3点である。1. 生後6ヶ月間母乳だけで児を育てることが消化器系の感染症罹患率を低下させること。2. 生後6ヶ月間母乳以外のものを与えなくても工業国・開発途上国にかかわらず児の成長には問題が見られないこと。3. 生後6ヶ月間児を母乳だけで育てることが母親の健康も増進すること。

母乳推進に熱心な分娩施設でフォローされても退院後、体重が13%も減少したままだったり、母乳だけでうんちおしっこもそこそこ出てよく眠ってくれるから大丈夫と1か月健診にいったら体重が全く増えていなかったということに、「工業国」の日本でもしばしば遭遇します。


なぜここまで「母乳だけ」が強調されるのか理解できないのですが、「補完食」の言葉が広がった背景には「母乳だけ」が条件としてあるようです。


<ミルクは補完食なのか>


「母乳以外に摂取する栄養」を補完食とするのであれば、ミルクは補完食なのでしょうか。


「母乳育児支援ガイド」では、「『補完食』という言葉を用いて、『母乳や育児用人工乳以外から摂取する栄養』について述べる」(p.274)と「補完食の定義」では書いてあり、一応、ミルクは補完食には含めないようです。


ところが、2003年にWHOと全米保健協会から発行された「母乳で育っている児の補完食のガイドライン」の「適切な補完食とは」を以下のように引用しています。

適切な時期に Timely


母乳のみを頻回に与えても、それだけではエネルギーや栄養素の所要量が満たされなくなったときに

となると、やはり混合栄養は「補完食」に含まれるのでしょうか。


ところがそれでは「一般的な補完食の開始時期は生後6ヶ月」とは齟齬が出てしまいます。


まして最初からミルクだけで育つ赤ちゃんは、生後すぐから「補完食」で育ったということになってしまいます。


完全母乳(exclusive breast feeding)を勧めるために、ミルクに対しても排他的(exclusive)になり、矛盾した表現を含まざるを得ない。
「補完食」にはそんな印象を受けるのです。


そして新生児期から乳児まで「乳汁を吸うことから、食物をかみくだして飲み込むことへと発達」する「乳児の摂取機能」の発達(「離乳のガイドライン」より)に合わせることよりも、「母乳か母乳以外か」の境界線にこだわりを持たせる言葉だと思います。




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