母乳育児という言葉を問い直す 3 <離乳食と補完食>

少し間があきましたが、「母乳育児という言葉を問い直す」の続きです。


「母乳育児」という言葉の広がりとともに、新たに耳にする言葉が増えました。
そのひとつに「補完食」があります。
「離乳食(補完食)」とした記述もあれば、「離乳食と補完食は別である」ととらえている場合も見受けられます。


私がこの補完食という言葉をいつどのように知ったのかは記憶にはないのですが、「とらねこ日誌」に以下のようにコメントしたのが2009年ですから、2000年代後半にどこからともなく耳にしていたのだと思います。

貧困層の方が大半を占める国では、授乳期の赤ちゃんは栄養状態がよく、離乳期に入ると栄養不良になっていくことがあります。
わずかの食品を大家族で分け合っている状態では、小さなこどもほど分け前が少なくなっていくからです。ですから、2歳頃までは母乳をあげましょうというのは、良い方法だと思います。「母乳の補完食」と書かれていますが、実際には「離乳食の足りない分を母乳で補う」というのが実態です。


WHOの母乳推進活動はあくまでも途上国の低栄養のこども達を減らすためだと思っていたので、「補完食」という言葉が使われるようになったり「2歳までは母乳を」というスローガンも、文字通りに受け取っていました。


doramaoさんのブログに出会ってから、母乳推進についてなんとなく感じていた疑問を突き詰めて考えて行くようになり、「補完食」という言葉の背景にあるものがようやく見えてきたように思います。


<「離乳食」の定義>


「補完食」について書く前に、従来通りの「離乳食」とは何か2007年に厚生労働省が出した「授乳・離乳の支援ガイド」の「離乳編」から紹介します。

2. 離乳の支援に関する基本的考え方


離乳とは、母乳または育児用ミルクなどの栄養から幼児食に移行する過程をいう。この間に乳児の摂取機能は、乳汁を吸うことから、食物をかみくだして飲み込むことへと発達し、摂取する食品は量や種類が多くなり、献立や調理の形態も変化していく。また摂取行動は次第に自立へと向かって行く。(p.40)

離乳については、乳児の食欲、摂取行動、成長・発達パターンあるいは地域の食文化、家庭の食習慣等を考慮した無理の無い離乳の進め方、離乳食の内容や量を個々に合わせて進めていくことが重要である。子どもにはそれぞれ個性があるので、画一的な進め方にならないよう留意しなければならない。


乳児の成長・発達という医学的な視点、家庭や地域の状況という社会的な視点、そして個人の差という視点から全体像が網羅されて書かれている、離乳の本質ではないかと思います。


<摂取行動の自立にむけたケア・・・離乳>


以前勤務していた総合病院では産婦人科と小児科の混合病棟だったので、ときどき生後半年から1歳までの離乳期の赤ちゃんが入院してきました。


月齢に合わせた離乳食が出るのですが、目を輝かせておかゆやドロドロにした食事を食べている赤ちゃんを見ると、日々接しているあの哺乳瓶でミルクを飲んでいる新生児がわずか数ヶ月でここまで成長するのかと感激していました。


反対に病気になったことで、それまで順調に固形食をとり始めていたのに一切食べられなくなってしまう赤ちゃんもいて、こちらは四苦八苦します。


「食べ物」という概念もないので、手でこねくりまわしたり遊び食べもあります。
ちょっと目を離した隙に悲惨な状態に・・・。


こんな過程を通して人は食べることに自立していくのですね。


「排泄の自立」の記事でこんなことを書きました。

乳児期の身体的な自立のためには、体の自律と心の自律を時間をかけながら自ら勝ち取っていくものではないでしょうか。


厚労省の「離乳の定義」は、その自立していく乳児を主体にしたケアの視点で書かれた名文だと私は感じました。


それに対して「補完食」とはどのようなことなのか、次回に続きます。




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